3.やる気のない年上部下とどう向き合うか

 Cさんは,トラック輸送を中心とした運送業の本社スタッフから物流センターの現場管理職に就任しました。輸送効率が下がっており,業務プロセスの見直しが急務とされたためです。本社で業務改善を担当していたCさんは,短期間で効率化できると考えていましたが,現場に着任してみると大きな課題があることに気づいたのです。
 チームメンバーの全員が,Cさんより年上の50歳代のベテラン社員で,定年間近の人もいます。仕事は確実にこなしますが,仕事のプロセスを見直し,新しい方法を採り入れることについては強い拒否感を示します。新しい仕事の進め方を提案しても,「特に問題がないのに,なぜそんなことをしなくてはいけないのですか」「やり方を変えると後工程にも影響が出るので行うべきではありません」と反対されます。
 一番困るのは,会議の席で発言する人が少ないことです。反対意見を述べる数人以外は,指名しても何も発言しません。メンバーの大半がすでに昇進意欲もなく,今の状態を続けて定年を待っているようで,やる気や会社に貢献する気持ちが起こらないのは当然かもしれません。
 やる気のない人たちを指示に従わせるには,厳しく指導するしかありません。「指示に従わないなら評価を下げます」「異動してもらうことになります」と伝えることで,何とか業務プロセスの改善に着手することができました。ところが本社の部長から呼び出され,「部下からの評判が悪い。あの上司の下では働きたくないという話が人事部に届いている。指導法を変えて部下との関係を改善してほしい」といわれました。Cさんは,まず何から始め,どのように対応すればよいでしょうか。

選択肢


 @ 業務プロセスの見直しが急務であることをもう一度メンバーに説明す
   る
 A 年上の部下はやる気がないという見方を変えて,期待を伝えるように
   する
 B 新しい業務システムを導入して省力化が実現するまで頑張ってほしい
   と説明する
 C 協力的でない何人かを異動させ,若手の人材を補充する




 人に対する見方がその相手の行動に影響を与えます。心理学者のロバート・ローゼンタールによって報告されたピグマリオン効果という理論があります。これは,期待することによって相手もその期待に応えるようになる,というものです。
 反対に,期待しないことによって,相手のパフォーマンスが低下することをゴーレム効果といいます。この事例のリーダーは最初からベテラン,年上社員を新しいことに取り組む気持ちがない,やる気がないという見方をしています。これではメンバーのやる気は下がり,リーダーへの信頼が生まれるはずはありません。
 また,ダグラス・マグレガーによる人間に対する本質的な見方を“X理論”と“Y理論”で対比させたものがあります。自分の見方が相手に影響を与えていることを意識し,期待を伝えるようにすると,期待に応えよう,自分から進んで企業目標などに貢献しようとする人が育ってくるという理論です。

 選択肢@の見直しが急務であることを再度説明しても,メンバーに対する見方を変え,期待を伝えないかぎり効果はありません。選択肢Bの新システム導入まで頑張ってほしい,という説得もメ

ンバーへの見方は変わらず,期待もしていないことになります。選択肢Cの異動や若手の補充は信頼関係をさらに損ないます。選択肢Aのリーダー自身の見方を変えて,期待を伝えることから始めるのがよいでしょう。
 多くの職場で年上ベテラン部下が増えています。まずメンバーに対する見方を変えて,コミュニケーションに多くの時間を割くようにしてください。

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