3.消費スタイルの変化がDXを促す ▶先手を打って“売り方”を変える企業だけが生き残れる


◆ スマートフォンの普及で消費スタイルが変化

 企業がDXを迫られている大きな理由のひとつは,急速なデジタル化によってビジネスでの“戦い方”が大きく変わり,新たな“勝ちパターン”が次々と登場しているからです。これは,スマートフォンやSNSなどの普及によって,消費者の価値観や生活スタイル,消費行動が目まぐるしく様変わりしているのと裏表の関係にあります。
 スマホが登場したのは初代iPhoneが発売された2007年ですが,その前と後で何が変化したのかといえば,まず,買い物のスタイルが大きく変わりました。それまでネット通販といえばパソコン経由が主流でしたが,スマホなら仕事の合間や移動中でも商品画面をワンタップするだけで注文できます。これによって,買い物に応じて実店舗とオンラインショップを使い分ける動きが広がりました。
 次に,テレビや雑誌の情報だけでなく,SNS上でのクチコミやユーチューバーに代表されるインフルエンサー(世間への影響が大きい行動を行う人物)の言動が消費に影響を与えるようになり,「モノからコトへ(商品から体験へ)」という消費目的の変化が起こりました。品質にこだわり,他と差別化を図った商品をつくれば売れるという時代は過ぎ,その購入によって「どれだけワクワクできるのか」「購入前後にどんな特別の体験が得られるか」といった付加価値が問われるようになったのです。
 さらに,「モノからコト」への流れの中で,商品は買い取るものではなく,付帯されるサービスや体験とともに“提供を受け続けるもの”という新しい取引形態が生まれました。いわゆる「サブスクリプションモデル」です。いまや音楽や動画のストリーミング配信サービスだけでなく,食品やファッション,化粧品,さらにはクルマに至るまで,あらゆる商品がサブスクリプションモデルによって提供されています。
 このほか,自家用車をタクシー代わりにして客を運ぶ「ウーバー」や(日本は未認可),自宅の部屋や別荘を宿泊施設代わりとして貸す「エアビーアンドビー」,不要なモノをネットに掲載して消費者どうしが直接取引する「メルカリ」といった「シェアリングエコノミー」も急速に拡大しています。これも情報を入手して,すぐに予約や取引ができるスマートフォンの普及が後押ししているといえます。

◆ 俊敏な市場分析と供給体制の確立が課題

 このように,急速なデジタル化は消費者の生活スタイルや消費行動を大きく変え,企業に“売り方”やビジネスモデルの変革を迫っています。

 消費動向の変化をタイムリーにとらえ,的確なマーケティングや,売り方そのものを見直していくためには,膨大なデータ収集と緻密な分析が欠かせません。レガシーな既存システムでは,収集できるデータ量が限られ,分析機能も十分とはいえないので,「マーケットはいま,どうなっているのか」がみえにくく,データ活用に長けた競合相手に先を越されて

しまう可能性が高いわけです。
 また,求められる商品やサービスをタイムリーに提供するには,サプライチェーンの抜本的な見直しも不可欠です。注文を受けても在庫がどこにあるのかわからず,すぐに納品できないのでは顧客満足度が下がってしまいますし,大量の注文が見込めても,空いている工場のラインを把握してすぐに生産できなければ,せっかくの商機を逃してしまいます。これらを実現するためには,収集・分析した市場データに基づいて,生産や在庫管理,物流などを最適化する仕組みが欠かせません。デジタル化によって,いかに俊敏な市場分析と供給体制を確立するかが求められているのです。
 新型コロナウイルスの感染拡大により外出や他人との接触が抑制されたことで,他にもさまざまな消費行動の変化が表れています。ある大手EC(Electronic Commerce:電子商取引,オンラインショッピング)サイトの代表は,「新型コロナによって,世の中の変化は20年早まった」と語っており,この先,消費者の生活スタイルや行動はどのように変わっていくのか,ますます読みにくくなっています。
 確実にいえるのは,変化の兆しをいち早くとらえ,先手を打って“売り方”やビジネスモデルを変えられる会社だけが生き残っていけるということです。

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