1.DXとは何か? ▶デジタル技術を活用し「変わり続ける」風土を根づかせること


◆ DよりもXが大事

 DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉は,いまやテレビや新聞,雑誌でも当たり前に使われるほど浸透してきました。ビジネスの世界では,DXの意味を知らないと会話が成り立たない状況にすらなっています。しかし,概要は何となくわかるけど,正確な意味までは理解できていない人も多いのではないでしょうか。
 そもそも「デジタル・トランスフォーメーション」とは,スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した概念で,「ITの浸透が,人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させる」という未来を示したものです。
 つまり,概念そのものは約17年前に提唱されていたのですが,これでは解釈の余地が大きすぎるので,その後,より具体的な定義づけが行われるようになりました。日本では,経済産業省が2019年7月に発表した『「DX推進指標」とそのガイダンス』の中で,DXを次のように定義しています。

(DXとは)企業がビジネス環境の激しい変化に対応し,データとデジタル技術を活用して,顧客や社会のニーズを基に製品やサービス,ビジネスモデルを変革するとともに,業務そのものや組織,プロセス,企業文化・風土を変革し,競争上の優位性を確立すること

 これをみると,たんに日々の業務や提供するサービスにデジタル技術を採り入れることが,DXの本来の意味ではないということがわかります。DXは,D(デジタル)と,X(トランスフォーメーション)を合わせた言葉ですが,言葉の持つ意味の重さとしては,「トランスフォーメーション(変革)」のほうが,より重要なのです。
 デジタル技術の活用によって,いままでの業務やサービスをいかに変革し,従業員やお客様によりよい付加価値を提供できるか ―― つまり,従業員視点や顧客視点,広い意味では社会視点で業務プロセスやビジネスモデルのあり方を抜本的に見直すことが,DX推進の本質であるといえます

◆ たんなるデジタル化ではなく,マインドを変える

 DXと似たような言葉に,「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」が

あります。いずれも「デジタル」から派生した言葉ではありますが,意味するところは大きく異なります。
 デジタイゼーションとは,従来は紙の書類による管理や,手作業などのアナログで行っていた業務をデジタルに置き換えることです。書類のペーパーレス化や,エクセル(表計算ソフト)への手入力をRPA(業務自動化ロボット)によって自動化するといった取り組みが代表例です。個別業務の効率は格段に上がるはずですが,業務プロセスはいままでどおりなので,全体最適化された効率改善は実現できません。そこで,デジタライゼーションという取

り組みが求められるようになります。
 デジタライゼーションとは,デジタル技術を活用して業務プロセス全体を変革し,新しいビジネスモデルを実現する取り組みです。たとえば音楽・映像コンテンツ産業では,かつてはDVDやブルーレイディスクなどのパッケージで売っていたソフトをダウンロードで提供するようになり,いまでは配信やストリーミングが当たり前となっています。デジタル技術の進化に合わせて売り方が変わり,業務のあり方や流れも変えるという変革が行われてきたわけです。
 DXは,これらをさらに上回る“大変革”だといえます。なぜなら,既存の業務やビジネスモデルのあり方を変えるだけでなく,「時代の変化に合わせて変わり続けていく」という“変革志向のマインド”を社内に根づかせ,醸成する取り組みだからです。
 デジタル化の急速な進展によって,世の中の変化は目まぐるしくなっており,新たな競争相手が,いままでになかった斬新なビジネスモデルや商品・サービスを引っ提げて,既存のビジネスを脅かす動きも激しさを増しています。そうした時代を生き残るには,自らも「変わり続ける」ことで戦いに勝ち抜かなければなりません。
 そのためには,変化を恐れず,新しい取り組みに積極的にチャレンジする人材の育成や,変化を奨励する仕組みづくり,組織づくりが大切です。

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