3.カイゼンにおける「考える」の意味を問い直す

日本人に多い責任逃れの「考える」

 ある現場で若い人が優れたカイゼンのアイデアを出したので,その上司に筆者から「今すぐにやりましょう」と促したところ,「ちょっと考えさせてください」という返事でした。後々わかったことですが,その上司はいつも「ちょっと考えさせてください」といって後回しにし,結果,何もやらないタイプだとのことでした。
 このときの「ちょっと考えさせてください」が「決裁権がないので,上司の意見を聞く必要があります」や「もう少し幅広く意見を募りたいので,少し時間をください」といった意味でないことは明らかでした。彼は「もし失敗したら(自分の責任になったら)どうしよう……」と心配し,決断できなかったのでしょう。
 カイゼンの実行には,しっかりと「考える」ことが大切ですが,この上司の「考える」は,真逆の思考停止です。改めて,カイゼンにあたっての「考える」とは何かについて検討してみなければなりません。
 ある国立大学の先生が,新聞のコラムで日米の大学生を比較しています。アメリカの学生からは「講義のここが納得できません。こうではいけませんか?」といった質問が多い一方で,日本の学生はほとんど質問をせず,あっても「ここがわからないので教えてほしい」という答えを求める質問ばかりだと述べています。コラムの最後に

「日本には日本のよさがある。でもこの差は大きい」と締めていました。
 このように,日本では多くの人が「考える」ことを「正解を見つけること」と思い込んでいる節があります。カイゼンにあらかじめ決まっている正解などあるわけがないのに,正解が見つかるまで実行しないのでは,いつまでたっても正解にたどりつけないでしょう。


カイゼンの質量を高める「考える」の5ステップ

 筆者は以前,アメリカのIBM社の社是が「Think(考えよ)」であることを知り,興味を持ちました。社是は5つのステップで説明され,これが筆者の考えと符合したので現場カイゼン用につくりなおし,活用するようになったのです。
 以下がIBMの原文となり,この順序で「考える」に至ることを表しています。

 @ READ(本などを読む)
 A LISTEN(人の話に傾聴する)
 B DISCUSS(周囲の人たちと議論する)
 C OBSERVE(物事の推移を観察・洞察する)
 D THINK(考える)

 そして,この社是をベースにした柿内流は,

 @ 現場を見る(現場に立って,そこから知る)
 A 現場の人たちに聴く(現場で起きていることを,共感・反感を含めてよく聴く
 B ワイワイガヤガヤ議論する(周りの人と意見交換する)
 C 実行(実際にどうなるか実行して結果を見る)
 D THINK(考える,カイゼンの継続)

 みんなで集まり,見て,アイデアを出し,話し合って,その場でカイゼンを実行し,それを継続して経営に活かすことが「考える」ということです。筆者はこの定義の「考える」によって,カイゼンをすすめています。
 「考える」の5ステップを繰り返して現場をよくし,会社をよくしていくことがカイゼンなのです。まず1回試し,そこで現場や顧客の反応を見てさらに2回,3回と繰り返していくと,名実ともに誰もが認めるカイゼンとなり,従業員と会社は大きな成果が得られます。
 たくさんの人に参加してもらうことで多様性のある議論が交わされ,レベルの高い分析やアイデアが生まれます。そして全員が一致協力してカイゼンを実行することでカイゼンの質も量も上がり,カイゼンは加速していきます。そして,その結果を全員で評価することが参加意識とモチベーションを高めて,さらなるカイゼンへと進展させるのです。

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