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変化を前提としてカイゼンをすすめる
前頁で企業活動にカイゼンが必要な理由としてあげた「1.世の中の変化は止まらないから」について考察してみましょう。
もし世の中が全く変化しなければ,自分たちも変わる必要はなく,カイゼンを推進せずとも問題はありません。しかし,社会が目まぐるしく変化する中,私たちは常にテクノロジーや環境の変化を察知し,最適解を考えて対策を実施し,変化に対応していく必要があります。たとえば,自動車は今後,2050年カーボンニュートラルに向けてガソリン車から電気自動車にシフトしていきます。同じ自動車でも動力源などの構造が異なるので,モノづくりやインフラのあり方を大幅に変更しなければなりません。
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また近年,新型コロナウィルスの感染拡大は,時代の変化をさらに加速させました。売り方ではネット販売が拡大し,自動販売機なども以前にはなかった幅広いジャンルのモノが売られています。一方,買い方では電子マネーの普及,半自動レジ,各種デリバリーサービスにもネット販売の強化が見受けられます。
製造側に目を向けると,コロナ禍の輸入規制や海外での原材料不足の影響があり,必要な部品が入らず生産が遅れ,その対策でコストが上がるなどの変化も起きています。こうした大きな変化や問題に直面したときにこそ,「何が起きても変化を恐れずにカイゼンを実行する」という対応力が求められています。
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カイゼンによって経験蓄積と能力開発をすすめる
「2.会社を育てるから」については,次のように考えます。まず,変化の大きい時代に求められるのは,さまざまな問題を見つけ,分析し,対策を実行できる人材を企業が多数抱えていることです。このような人材を育成するためにも,全社的なカイゼンの奨励が有効な方法の一つになります。カイゼンを実行するには,現場の実態や市場の動向を調査分析し,その対応を議論するというプロセスを踏みます。
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P‐D‐C‐A(Plan:計画,Do:実行,Check:評価,Action:カイゼン)サイクルを何度も回してカイゼンすることで経験が蓄積され,経験をもとに新しい手法を創造する能力が開発されるのです。
カイゼンの実行に多数の社員が参加することで,ユーザーインの時代に求められる細分化した消費者需要に応えるアイデアも,それぞれの部
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門ごとに違った視点で生まれてきます。自分たちの製品を顧客がどう評価し,何を望んでいるのかなどの情報を収集し,どういったカイゼンを加えるか議論する必要があります。実際に筆者の指導先では,社員のアイデアだけでなく,クラウドファンディングを通じて試作品のアイデアを募ったり,関心の度合いを測ったりしている会社もあります。
各部門のカイゼンが企業の持続的成長を支える
さらに,「3.経営を支えるから」についてです。経営の大きな要素としてあげられるのは,資金繰り,商品力(生産力・サービス),営業力です。これらの要素とカイゼンは密接な関係があります。
材料・機械の調達,在庫管理は資金繰りに影響し,生産性の向上,新商品の開発,技術力の向上は商品力に影響し,納期の安定,在庫の安定,生産管理,商品サービスの発信は営業力に影響します。それぞれのカイゼンを続けることで生まれる対応力,速度感,連動性は,経営に直結してくるのです。
さまざまなカイゼンの中でも,デジタルの導入は若手社員が活躍するチャンスの場になりやすく,長年の課題が一挙に解決する事例も多々見られます。社員の育成,未来への投資として,デジタルへのチャレンジも視野に入れるべきでしょう。デジタル化のメリットは,人の作業に比べて生産性や効率性などさまざまな数字がデータ化しやすく,それらのデータは将来のDX*化に向けた重要なステップになることです。
こうした新しいチャレンジの提案があれば,リーダーは提案者を評価して実現をサポートし,多くの社員が興味を持ってカイゼンに取り組む自発的な活動にしなければなりません。
*DX(デジタル・トランスフォーメーション):企業がデータとデジタル技術を活用し,顧客や社会のニーズをもとに製品やサービス,ビジネスモデルを変革するとともに,競争上の優位性を確立すること
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