7.タテではなくヨコの関係を重視するには

タテ社会・上下関係が染みついた私たち

 学生時代に部活動をしていた人は,当時を思い返してみてください。体育会系でも文化系でも,先輩後輩の関係に何かしらの煩わしさを感じたことはないでしょうか。筆者が在籍していた中学高校では,演劇部や吹奏楽部などは体育会系並みに上下関係が厳しかった記憶があります。
 日本の学校では,子どもの頃からある程度の上下関係を叩き込まれます。平成から令和に移り,社会的にもずいぶんマイルドにはなってきましたが,それでも「先輩に敬語を使う」「主な雑用は後輩の仕事」のような不文律は今でも残り,大人の世界も子どもの世界もタテ社会であることには変わりません。
 もちろん,先人を敬うのは一つの美徳ですが,それが行きすぎて「先人だから敬う」とか「先人しか敬わない」,さらには「あなたより私のほうが先輩だから私を敬え」となると話が違います。

ヨコの関係で相手を尊敬し,信頼し,共感する

 人間関係を円滑に運ぶうえでアドラー心理学では,タテの関係ではなく,ヨコの関係を重視します。前述の勇気づけ(8ページ参照)に必要な要素として尊敬・信頼・

共感がありますが,ここでいうところの「尊敬」とは,下の立場の人が上の立場の人を崇め奉るような態度ではなく,性別・年齢・人種・国籍・職業・役割・障がいの有無・趣味嗜好などが違ったとしても,相手のことを自分と同等の権利をもつ1人の人間として大切に思い,敬う態度と考えます。誰が上,誰が下ということではなく,みな等しく価値があり,等しく大切にされるべきだ,という基本前提があります。

 そして,相手と関係性を結ぶには,相手を「信頼」しなければなりません。信頼とよく似た言葉に「信用」がありますが,意味の違いは,どんな単語と

「信用」と「信頼」の違い

 信 用 

 信 頼 

 credit 

 trust 

 相手の悪意の可能性を見極
 め,それまでの行為・業績
 などの裏付けをもとに信じ
 ること(条件つき)。
 生産性の原理にもとづく

 常に相手の行動の背後にあ
 る善意を見つけようとし,
 根拠を求めずに信じること
 (無条件)。
 人間性の原理にもとづく

相性がいいかを考えると,おのずと答えは出てきます。
 信用組合,信用金庫,信用取引はあるけれど,信頼組合,信頼金庫,信頼取引は耳なじみがなく,逆に「信頼関係」はよく聞くけれど,「信用関係」という言葉はありません。
 信頼と信用の違いを簡潔に述べると,信頼は無条件に相手を信じることであり,信用は何らかの裏付けをもとに信じることです。信用金庫がお金を貸してくれるのは,保証人や担保となる土地など,何らかの返済の裏付けがあるからです。
 信頼は,相手がもしかしたら自分を裏切るかもしれないと思ったとしても,それも含めて丸ごと相手を信じることです。さっき知り合ったばかりのほぼ他人を信頼するのは,きわめて難しいことです。しかし,「この人(たち)とよい関係を築いていきたい」「この人(たち)とよりよい共同体をつくりたい」と心に決めたら,まず自分から相手を尊敬し,信頼することが必要です。「あなたが私を信頼するなら私もあなたを信頼する」では,相互尊敬,相互信頼の関係性はつくれません。自分が先に,より多く相手に対して尊敬や信頼の気持ちをもつのです。それには立場や役割の上下は関係ありません。
 そして「共感」とは,相手の置かれている状況や考え方,意図,感情などに関心をもち,相手の目で見て,相手の耳で聴き,相手の心で感じることをいいます。少し大げさに聞こえるかもしれませんが,実は私たちも身近な人たちに対しては,自然とできていたりする感覚です。相手の様子を見て,「ああ,しんどいのだろうな」「うれしそうだな」「悔しい気持ち,わかるよ」「笑っているのを見て,こっちも元気になってきた」と感じたことはみなさんもあるでしょう。
 ヨコの関係で相手を尊敬し,信頼し,相手の身になって共感する。このように人間らしい素直な感情が,よりよい関係性を築くベースになるのです。

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