1.なぜあなたの職場の若手は辞めていってしまうのか

新人の目線で職場を見てみると

 「会社辞めたいな……」,誰しも一度や二度,そんなふうに考えたことはあるでしょう。それまでは同年代の人たちと和気あいあいと過ごし,出会う大人は親と教師,アルバイト先の先輩くらいだった新卒の若者たちにとって,職場というのは,大人ばかり,怖い人ばかり,怒られるかもしれない,初めてのことだらけな場所なのです。
 しかも諸外国と比較すると,賃金の上昇率が極端に低く,デフレ状況が長引く現在の日本。バブルが崩壊して早30年。「がんばれば報われる」「終身雇用」「年功序列」「給与は右肩上がり」という考え方は,この30年間で現実からは消え失せました。それにもかかわらず,バブル時代の残り香が漂っている職場が今も少なくありません。
 リーダー層の中には若手の退職に際して「今どきの若いやつは『石の上にも三年』という言葉を知らない」「せっかく仕事を教えたのに,後ろ足で砂をかけるようなまねをして」と憤っている人もいますが,そうした旧態依然とした職場の風土や文化が,現代の若手社員の志向との間にギャップを生じさせています。
 平成31年度新入社員「働くことの意識」調査では,新入社員の就労意識とその変化について,以下のような結果が報告されています。近年では,仕事そのものに対するコミットメントの低下傾向が見られ,若手社員は,仕事のやりがいよりも,人間関係や働きやすさ,休暇の取りやすさを重視している傾向が認められます。つまり,条件に合う職場環境でなければ,退職の決断も早いということです。

新入社員の就労意識

1位

 社会や人から感謝される仕事がしたい

 93.9 (+1.0)

2位

 仕事を通じて人間関係を広げていきたい

 92.5 (-1.6)

3位

 ワークライフバランスに積極的に取り組む職場で働きたい

 91.8 (-0.8)

4位

 どこでも通用する専門技術を身につけたい

 90.4 (-0.8)

5位

 高い役職につくために,少々の苦労はしても頑張る

 81.5 (+1.8)

6位

 これからの時代は終身雇用ではないので,会社に甘える生活はできない

 78.2 (+1.3)

7位

 仕事を生きがいとしたい

 70.3 (+1.8)

8位

 仕事をしていくうえで人間関係に不安を感じる

 65.8 (-4.9)

9位

 できれば地元(自宅から通える所)で働きたい

 60.4 (-1.5)

10位

 職場の上司,同僚が残業していても,自分の仕事が終わったら帰る

 60.4 (-1.5)

※出典:平成31年度新入社員「働くことの意識」調査結果(公益財団法人日本生産性本部と一般社団法人日本経済青年協議会)


会社を辞める最大の理由は「人間関係の悪さ」

 令和3年10月の厚生労働省の発表によると,新規学卒就職者(平成30年3月卒業者)の就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者で約4割(36.9%),新規大卒就職者で約3割(31.2%)となりました。これでも例年よりは低下した数値です。コロナ禍が影響し,再就職の困難さを考えて,現在の職場に留まる人も増えたのでしょうが,それでも新規大卒者は3年以内に約3割が離職しています。

 また,求人情報サイトBiz Hitsが新卒1年以内に転職した381人に聞いた転職理由ランキングは,1位が「人間関係が悪い(119人)」,2位が「長時間労働・休日への不満(86人)」,3位が「仕事内容が合わない(66人)」となっています。
 「今どきの新人は耐性がない」「根性がない」と言うその前に,あなたの職場の人間関係はどうなっているでしょうか。「ベテランや管理職のみならず,新人や若手,中堅層が,男女問わず気持ちよく働ける人間関係が構築されています」と胸を張って言える職場環境でしょうか。
 この特集では,若手の定着率が上がり(離職者をこれ以上増やさない),より働きやすく,より力を発揮できるような職場づくりのノウハウを探っていきます。その方法は,難しすぎて脱落者が出るようなものでもありません。その代わり,一朝一夕にできるものでもなければ,魔法がかかったようにあっという間にできるものでもなく,日々の小さな習慣の積み重ねと全員参加が基本です。

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