3.事実と意見を切り分ける

 意見の食い違いは対話のきっかけ

 他者と意見が食い違うとき,みなさんはどのような反応をするでしょうか。つい,相手を言い負かそうと躍起になってしまったり,逆に相手の意見のほうが正しそうだと言葉を飲み込み,自分の意見を引っ込めたりしてしまうかもしれません。
 実は,言い負かそうとするのも,言葉を飲み込んでしまうのも,根本は同じ。相手との対話を断ち切る行為です。対話を勝ち負けに持ち込み,断ち切ってしまうと,あなた(もしくは相手)の考えた範疇以上のアイデアは生まれません。
 本来,対話の中から自分のアイデアが育ち,相手のアイデアを育て,その結果1+1を10にも100にもすることができる,化学反応の場なのです。そのために必要なことは,意見の食い違いを対話のきっかけとするコミュニケーションです。

 事実と意見を切り分けて考える

 意見の食い違いを対話のきっかけとするには,事実と意見の切り分けが大切です。
 事実とは,「誰が見ても客観的に確認できること」。定量的(数値・数量で表せる)なデータはもちろん,定性的(数値・数量で表せない)な記述であったとしても,観察される事象から他者の発言もまた「そのようなものが存在している,そのような行動が起こされた」という事実であるといえます。

 一方,意見とは,自分なりの考え・主観が反映されたものです。事実を踏まえて,「自分がどのように感じたのか」,さらに自分なりの感じ方を踏まえて,「どう判断・行動すべきと考えたか」が意見となります。

 事実と意見の切り分けが議論を促す

 事実と意見が混同されていると,相手も「それは違うよ」という漠然とした反対意見になりがちです。しかし,図表2のように事実と意見を雲・雨・傘に分けると,相手と自分の判断・提案が違っていても,その判断・提案はどのような推測・解釈のもとに導かれたのか(傘と雨のつながり),推測・解釈はその事実から導かれるものとして妥当であるか(雨と雲のつながり),議論のベースとなる事実の認識はあっているのか(雲)を分けて,それぞれのつながりを順に議論することができます。
 具体的な議論によって相違点・共通点が見出しやすくなり,お互いに納得できる結論に至ります。相手との議論がうまくいかなかったら,ぜひお互いの言い分を雲・雨・傘に分けてみてください。その際に,まずは自分の考えを雲・雨・傘に分けて相手に示すこと。すると相手も対比する形で雲・雨・傘を示しやすくなります。

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