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事実は必ず「ファクト」にあたる
事実と意見を切り離したとしても,そこで捉えたつもりでいる「事実」が「事実」でなかったとしたらどうなるでしょうか。事実の捉え方自体が違うのですから,対話は平行線をたどることになります。
したがって,事実と意見を切り分けるだけでなく,切り分けた事実が,客観的にそうだといえるか,必ず根拠となる「ファクト」を確認しなければなりません。
ファクトとは,「事実」です。さらに,ビジネスコミュニケーションにおけるファクトとは,市場や顧客,組織内の業務上で起こった事象を,データや客観的な観察として記述したものを指します。ファクトを押さえる際の原則は,次の3つです。
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@ できる限り定量的に表現する
A 定性的にしか表現できないときには,対象が「ある・いる」または,人が 「〜という行動をした」という表現にする
B できる限り信頼性の高い情報源から情報を得る
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たとえば,「わが社の新商品に対する顧客のニーズは高い」という表現について考えてみましょう。「顧客のニーズが高い」という表現には,何を根拠に高いといえるのか,どのくらいの水準から高いといえるのか,が示されていません。根拠のない思い込みである可能性があります。
そこで,前述の原則に従って先ほどの例文を書き替えるには,データを取ったり,当事者にヒアリングしたりするなど,ファクトを押さえる行動が必要になります。ファクトを押さえると,「顧客にアンケートを取ったところ,6割の顧客がわが社の新商品が欲しいと回答した。したがって,この商品に対するニーズは高い」というように,より客観性の高いファクトを備えた事実となり,対話のベースとして機能するのです。
ファクトが万能ではないことに注意
ファクトを押さえたとしても,事実の捉え方が異なるケースもあります。
1つは,比較する範囲によって起こる違いです。「わが社の新商品に対して6割の顧客が欲しいと回答した」というファクトも,ヒアリング対象者が自社のファンだった場合,6割では期待する水準とは言いにくいかもしれません。一方,ヒアリング対象者が競合他社のファンだった場合は,6割は期待以上の水準といえます。
同じファクトであっても,自分が見ている(比較している)対象が変われば,捉え方が変わります。自分が見ている範囲が何か,相手が見ている範囲が何か,を確認しなければ,意見の溝は埋まりません。
もう1つのケースは,事実の捉え方に「知識・経験・価値観」が反映されてしまうケースです。図表4を見てください。同じ事実でも,AさんとBさんとでは,捉え方が違っています。Aさんは「30単位時間も削減された」と過剰に削減されたことに問題意識を感じていますが,Bさんは「30単位時間しか削減されなかった」と削減幅が小さかったことに問題意識を感じています。
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事実をどのように捉えるのか,その事実にどのような推測・解釈を加え,どう判断するのか。その背景には,その人が持っている知識や経験,価値観が大きく影響しています。しかし,知識・経験・価値観などは可視化しにくいものです。そのため,いくら雲・雨・傘(8ページ参照)に切り分けたとしても納得してもらえない,お互いに意見の落としどころが見つからないというケースが発生してしまうのです。
大事なのは,ファクトを確認することに加えて,ファクトを踏まえて対話をくり返すこと。「私はこのファクトをこのように捉えた。あなたはどのファクトをどう捉えたのですか?」というように,自分の捉え方を言葉にして説明し,相手の捉え方と比較できるように示し,そのやり取りの中から合意を見出すことなのです。
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