6.総務のDX 従業員体験(EX)を高めて定着率を上げる

 煩わしい社内サービスの手続きを簡易化する

 総務部門の業務は多岐にわたりますが,なかでも近年,重要な業務の1つとして注目されているのは,従業員体験(Employee Experience,以下EX),つまり従業員が会社で働くことを通して得るすべての経験の向上です。
 企業が成長するためには,何よりもそこで働く「人」に活躍の機会を与え,成長してもらわなければなりません。そのためには,思う存分仕事に専念し,パフォーマンスを最大限に発揮できるような環境を整えてあげることが大切です。
 EXが向上すれば,その影響は顧客体験CX)にもプラスに作用します。「いい仕事をしよう」というモチベーションが,製品やサービスの魅力を高めるからです。仕事に専念できる環境を整えれば,おのずと従業員の生産性は上がり,人件費などのコストは下がります。その意味でも,EXの向上は利益拡大に結びつく取り組みです。
 また,EXを向上させることには,従業員の確保や定着を促し,離職者を減らす効果も期待できます。誰だって,働きやすい会社,働きがいのある会社に勤めたいと思うのは当然ですから,人手不足に悩んでいる会社ほど取り組む価値があるでしょう。
 EXを高めるためのアプローチはいろいろありますが,煩わしい雑務の手間をなるべく取り除いてあげるのも有効な方法です。たとえば,地方転勤を命じられた場合,従業員はそれに伴って,手当の申請や転勤先の住居の確保,転勤先で使用するパソコンやスマートフォンの手配など,さまざまな申請や手続きを行わなければなりません。
 通常,手当の申請は経理,住居の確保は総務,パソコンやスマートフォンの手配はIT部門といったように,バラバラに分かれています。従業員は,どの窓口に,どの申請を行えばいいのかがよくわからず,処理にかなりの時間がかかってしまいます。
 そこで,あるITソリューション企業は,こうした社内サービスの窓口を1つのポータルサイトに集約するソリューションを提供しています。GoogleやYahoo!と同じように,社内ポータルの検索窓に「転勤先の住居を確保したい」などのリクエストを入力すると,自動的に該当する部署の連絡先が表示される仕組みです。
 これなら,どこに申請すればいいのか迷わずにすむし,そのままポータル上で申請

ができるので,何度も担当部門と電話やメールをやり取りする手間も省けます。しかも,スマートフォンにも対応しているので,外出中や在宅勤務時でも空いた時間に申請できるのです。

 健康管理で従業員とウィンウィンの関係を

 このほか,EXを高めるデジタルツールには,従業員の健康を管理するものもあります。たとえば,リストバンド型のデバイスを従業員に着用してもらい,脈拍や血圧などがリアルタイムに把握できるサービスも登場しています。
 コロナ禍によってリモートワークが普及し,従業員の健康管理が困難になったいま,こうしたサービスを活用して,いつ,どこにいても従業員の健康状態をチェックできるようにしておくことは,EX向上のための有効な方法だといえます。
 ほかにも,メンタルヘルスの悪化を防ぐために従業員のストレスチェックを行うサービス,日々の歩数や食事の内容などをもとに健康診断を行うアプリなど,デジタル技術を使って従業員の健康管理をサポートするサービスはいろいろあります。
 従業員の健康に配慮しているという姿勢を示すことは,会社に対する満足度や愛着を高め,従業員が健康に働いてくれれば,仕事のパフォーマンスも向上します。DXによる健康管理で,従業員と会社の間にウィンウィンの関係が築かれるのです。
 EX向上の取り組みが効果を表しているかどうかを確かめるためには,定期的な「従業員意識調査」や「従業員満足度調査」を行うことも大切です。社内サービスに対する要望を積極的に採り入れ,満足度の低いサービスには改善を重ねることが,従業員の定着に結びつきます。

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