4.日常動作で血圧がスーッと下がる ―― 高血圧に効く運動


◆ 血圧の安定に役立つエクササイズ

 高血圧の治療では,食事療法(主に減塩)とともに運動療法も重視されています。
 従来,高血圧の患者さんに指導する運動療法はウォーキングなどの有酸素運動が中心で,瞬時に力を加える筋トレは,あまりすすめられていませんでした。それが近年は,筋トレを行うことで手足の末梢血管の血流がよくなり,血圧が下がることが明らかになっています。
 筋トレといっても,腹筋運動のようなきつい運動は必要ありません。意識的にかかとを上下させるだけでも,降圧作用を得られるのです。
 そこで,血圧の安定に役立つエクササイズとして「かかと上げ」をおすすめします(図表8を参照)。かかと上げを行うと,第二の心臓と呼ばれているふくらはぎの筋肉(腓腹筋など)が大きく動き,全身の血流がスムーズになって血圧が安定しやすくなります。仕事の合間や通勤時の電車の中など,毎日の午前と午後に行うといいでしょう。


◆ 降圧作用を得られる呼吸法

 血圧は,意志とは無関係に内臓や血管の働きを支配する自律神経にコントロールされています。そのため,ストレスを感じたりして自律神経のバランスがくずれ,交感神経(体を活発に働かせる神経)の優位な状態が続くと高血圧を招きやすいのです。
 自律神経の乱れは,腹式呼吸図表9を参照)を深くゆっくりとくり返すことで整えられます。呼吸も自律神経の支配下にあるため,意識的に深くゆっくりと呼吸することで自律神経に作用し,交感神経の優位な状態から副交感神経(体を休ませる神経)の優位な状態に切り替わり,血圧を下げる効果を得られるのです。さらに,おなかを動かしながら呼吸することで自律神経が集中している横隔膜を刺激できます。
 ストレス解消にも最適なので,仕事中に気分を落ちつけたいときにもおすすめです。

◆ 一酸化窒素を増やす運動が血圧を下げる

 近年の高血圧治療で一番のトピックは「一酸化窒素(NO)」です。血管内で産生・放出されたNOは,血管を広げて血流を促し,血圧の上昇を抑える働きをします。このNOの血管拡張作用が画期的なのは,高血圧の治療で用いられる降圧薬とは作用のしくみが違うからです。血管内でNOを増やすことは,従来の降圧薬と併用しながら高血圧の改善につながるため,世界中から大きな注目を集めています。今回紹介した,かかと上げや腹式呼吸にも血管内のNOを増やす作用があると考えられています。

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