1.【ロジカルシンキングの基礎@】事実と意見を切り分ける

 コミュニケーションを円滑で豊かにするのが目的

 こんにち,ロジカルシンキングは,ビジネスパーソンにとって必須のスキルであるといわれています。特に,コロナ禍でリモートワークやオンラインでのコミュニケーションが増えた昨今,物事を体系立てて考え,自分の考えをわかりやすく伝える技術として,ロジカルシンキングの必要性が改めて重要視されています。
 ロジカルシンキングは「論理思考」,つまり論理的な構成・記述法や体系的な思考法など,技術的な側面から語られることが一般的です。しかし,みなさんがロジカルシンキングを学ぶのは,「論理的に議論できるようにすること」が目的ではないですよね。むしろ,コミュニケーションを円滑にし,より組織の成長に貢献するための手段としてロジカルシンキングを学ぶことが目的のはずです。
 この特集では,論理的に考え・伝える技術としての側面だけでなく,自分の考えを深め,他者とのコミュニケーションを豊かにする“ものの見方・とらえ方”としてのロジカルシンキングを紹介していきます。

 事実と意見を切り分けて話していますか?

 さっそく,基本中の基本「事実と意見を切り分ける」技術から見ていきましょう。
 “事実”とは,「誰が見ても客観的に確認できること」を指します。定量的な(数値・数量で表せる)データはもちろん,定性的な(数値・数量で表せない)記述であったとしても,観察される事象から他者の発言もまた「そのようなものが存在している,そのような行動が起こされた」という“事実”になります。
 一方,“意見”とは,自分なりの考え・主観が反映されたものです。事実を踏まえて,「自分がどのように感じたのか」,さらに自分なりの感じ方を踏まえて,「どう判断・行動すべきと考えたか」が意見となります。しかし,事実と意見を切り分けるのは,実は簡単なことではありません。例えば,
 この商品に対する顧客のニーズは高い
は事実でしょうか,意見でしょうか? 自分の意見を極力含めずに,意見を切り離して書き表すポイントは,次の3点です。

@ 対象が「ある・いる」,または,人が「〜という行動をした」という表現にする
A できる限り定量的に表現する
B 定性的に記述するときは,できる限り信頼性の高い情報源から情報を得る

 先ほどの例で考えてみましょう。
 「顧客のニーズが高い」という表現には,何を根拠に高いといえるのか,どのくらいの水準から高いといえるのか,が示されていません。
 では,先ほどの例文が,次のように示されていればどうでしょうか。
 顧客にアンケートを取ったところ,8割の顧客がこの商品が欲しいと回答した。
 したがって,この商品に対するニーズは高い。

 このように書かれると,1文目が「事実」であり,2文目は,話者なりの主観で「8割の顧客が欲しいと回答した」ことを「ニーズが高い」と解釈していることがはっきりします。
 こんな基本的なことくらいできている,と思われるかもしれません。しかし,多くの人が,「当たり前すぎて説明しなかった」とか,「そんな気がする,そうであるに違いない」という思い込みや印象で,事実を確認せずに考え,話しているのです。
 いくら緻密に論理を組み立てようにも,事実をベースにしなければ砂上の楼閣。説得力は生まれません。自分の話していることは,事実なのか,意見なのか,丁寧に確認し,裏づけとなるデータや,自分の目で見て耳で聞いた情報を取得することが必要なのです。

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