7.どのようにメンバーを引っぱればよいのか


◆主体的に動こうとしないメンバー

 照明器具メーカーに勤務する篠原さんは昨年,製品企画部のチームリーダーになりました。担当はLEDを使用したデザインのよい室内用のものです。この分野ではほかのメーカーの製品に比べると評判がよいものが少ないため苦戦しています。
 チームリーダーになるにあたって,「わたしにはリーダーシップがない。だからこそ,リーダーシップを発揮するように頑張らなくては」と思いました。まずメンバーに新製品候補のデザインをいくつか提案してもらい,そこからよいものを選び,図面化し,試作品をつくって検討することにしました。
 デザインを検討する段階でどのプランを製品化するかメンバーと意見が分かれましたが,メンバーの意見を取り入れることなく篠原さんが製品候補のデザイン案を選びました。図面化する段階でも細かいチェックを行い,メンバーに素材や細部の仕様を任せることはありませんでした。納得がいかないと何度も設計図を変更,修正させました。試作品の段階でも細かい変更や修正を出し続けました。その結果,メンバーたちは篠原さんの承認がないと試作がすすめられないようになり,自発的に仕事をしないようになってしまいました。
 試作品が出来上がり,会社の上層部にお披露目をすると,どれも高い評価を受けました。篠原さんは,わたしがリーダーシップを発揮したからよいものができたと思いました。すると,その直後に部長から「きみのグループのメンバーから2人も異動願いが出ている。いったいどういうことなのだろうか」と聞かれました。篠原さんはどのような対応をすればよかったか,以下の4つの選択肢から最も適切だと思うものを1つ選び,その理由を説明してください。


 選択肢 

@ 製品開発のすすめ方から,最後の段階まですべてメンバーに任せ口を出
  さない
A メンバーの意見や話は聞くが,最後は篠原さんのすすめ方を受け入れさ
  せる
B 売れる製品をつくるために,篠原さんのすすめ方に賛同できないメンバ
  ーはこの仕事から外し,ほかのメンバーや外部のデザイン事務所などを
  投入する
C 方向性を示し,基準を明確にし,意見を取り入れ大きく間違えない限り
  任せる


 考え方のヒント 

 リーダーシップとは何か,について考える問題です。事例の篠原さんは「わたしにはリーダーシップがない」と言っています。篠原さんは,リーダーシップを性格の一部や持ちものであると考えているのかもしれません。
 しかし,リーダーシップは持ちものではありません。リーダーの行動や発言をみて,リーダーについて行く人たち,すなわちフォロワーがそれをどう意味づけるかという課程で生まれるものです。リーダーシップとは最初からあるものではなく,リーダーとフォロワーの相互のやりとりの中で生まれていくものなのです。事例の篠原さんも時間をかけ,仕事をすすめるプロセスでメンバーたちの反応や様子をみながら,自分とその仕事に合ったリーダーシップスタイルをみつければよかったのです。
 また,篠原さんはリーダーシップを指示命令でメンバーを引っぱり,目標を達成することと考えています。しかし,それはリーダーシップスタイルの1つに過ぎないのです。リーダーシップ理論やスタイルには多くのものがありますが,主要なリーダーシップのスタイルを図表7にまとめます。

 事例の篠原さんはメンバーに仕事を任せることができず,過剰介入していますが選択肢@はその反対で放任になり,適切とはいえません。選択肢Aでは,話は聞くが自分のすすめ方を受け入れさせるのは,メンバーを信頼して仕事を任せていることにはならず,これも適切とはいえません。選択肢Bは売れる製品をつくるという目標は達成できますが,チームはバラバラになってしまいます。選択肢Cが適切です。多少時間はかかってもリーダーとの相互のやりとりの中で,メンバーは自然に篠原さんの目標実現に力を貸そうと主体的に動くようになります。

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