9.活発な会議をするために行うこと


◆リーダー中心の企画会議

 木村さんは広告代理店のイベント企画部門のリーダーに昇進しました。リーダーになったら実現してみたい企画をたくさん温めていましたが,感染症の拡大で企業が主催するイベント類はほとんど中止になりました。しかし,木村さんは,むしろ新しい企画を提案し,受注を増やすのはいまがチャンスなのではないかと考え,インターネットやSNSを使用した仮想空間でのイベントを企画しようと考えました。
 早速チームメンバーを集め,企画会議を開きました。会議の冒頭で木村さんは自分の企画案を,資料を提示しながらメンバーに説明しました。企画の感想をメンバーに聞くと,「よい企画だと思いますが,実現するには費用と時間がかかり過ぎるのではないか」という意見が出ました。木村さんはそのメンバーに対して「それはきみの経験が不足しているから実現が難しいと考えるのではないか。経験が豊富にあれば実現の方法はいくらでも考えることができる」と,メンバーの意見を一蹴しました。メンバーが企画を発表する段階では,メンバーの発表を遮る形で,これと同じ企画は3年前に実施した,この種の企画はうまくできたためしがない,と言いました。
 その後の企画会議では,最初に説明される木村さんの企画に対してメンバーは「よいと思います」などとしか発言しなくなり,質問や意見を言う人も少なくなりました。メンバーが提案する企画は,過去に実施したイベントの焼き直しのようなものが増えてきました。木村さんはメンバーにもっと企画を出してもらわなくては,と思いはじめました。木村さんはどのように会議を運営すればよいでしょうか。以下の4つの選択肢から最も適切であるものを1つ選び,その理由を説明してください。


 選択肢 

@ 企画はたくさんの中から選ばれるべきなので,提案企画数にノルマを設
  定する
A 斬新な企画を提案させるために,過去の提案の焼き直しを禁止する
B 思い切って木村さんは企画案を提案することをやめ,メンバーの企画案
  を全員で検討しよいものに仕上げるようにする
C まず,メンバーに企画案を発表させ,最後に木村さんの企画案を発表す
  る


 考え方のヒント 

 会議の活性化,すなわち意見交換や提案が活発に行われ,参加者全員が納得し,合意形成が行われる会議の運営方法についての問題です。このような会議のすすめ方をファシリテーションといいます。ファシリテーションとは,促進する,容易にする,円滑にする,という意味でチームの相互学習を活発にすることです。
 また,ファシリテーションを行う人をファシリテーターといいます。ファシリテーターはチームの会議では中立的な立場で,意見交換や討議のプロセスを管理し,チームワークを引き出すことで会議の成果が最大となるように支援する役目をする人のことです。会議等で参加メンバーが合意形成するためには,図表9のように討議の内容等の“コンテンツ”だけでなく,意見が活発に出て全員の会議への参加度が高くなる討議のすすめ方等の“プロセス”も必要になります。

 通常,ファシリテーター役は参加者が討議で活発に意見交換することができ,なおかつ討議のプロセスを共有できるように自身の意見やアイデアなどの“コンテンツ”に関与したり,ほかのメンバーのコンテンツそのものに意見や批判を行うことはしません。あくまで,討議の参加メンバーが意見やアイデアを出しやすいように,さらにメンバー全員で合意形成が行われ,参加者の納得度が高くなる討議運営を行います。
 事例の木村さんがメンバーにもっと企画を出してもらいたいと考えるなら,ファシリテーターに徹する必要があります。会議の最初に自分の企画をメンバーに提案し,メンバーの意見を傾聴しない姿勢はやめるべきです。メンバーに活発に企画を出してもらいたいなら,選択肢Bにあるとおり,自身の企画を提案することはやめ,メンバーの企画案の検討時に討議のプロセス,すなわちすすめ方にのみ関与することが適切な運営です。選択肢@のように,たくさんの企画を出させることや,選択肢Aの過去の提案の焼き直しを禁止するなど,規制で強くコントロールするとかえって自由な発想ができなくなる可能性があります。また,選択肢Cのように,最後に木村さんの企画案を発表するようにしても,木村さんが企画を提案する限り,メンバーは木村さんに配慮し,木村さんのプランを優先する意見しか出さなくなり,自由な意見交換ができない可能性があります。

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