事例1 何かと秘密なことが多い管理部の新任課長

 ムサシノ精密機械株式会社は仙台に本社のある,資本金60億円,年商400億円,従業員1,500名の,工業用検査機器製造では世界有数のグローバルニッチな中堅企業です。金沢課長は現在42歳,本社経営管理部管理課の新任課長です。工業系の大学院を卒業し,新卒でムサシノに入社,以来一貫して生産管理畑を歩み,直近まで長野工場の事務グループ長を務めていました。
 さて,金沢課長は管理課にきて半年経ちますが,本社の経営陣に近い部署であることもあって,何かと秘密めいた案件が舞い込んできます。同じ経営管理部には,企画課,人事課,総務課,経理課,管理課の5課があり,管理課は他の4課とも何らかのつながりがあって,課をまたいだ横断的な相談も少なくありません。

 今回は,人事課長から問題社員の処遇について相談されました。問題社員のX氏は海外拠点を中心にキャリアを重ねてきた営業部員で,社歴20年の中堅社員。6年ほど前の東南アジア滞在中に何かがあったらしく,体調不良を訴えて日本に帰国。その後は東京支社の国際部で支援業務に携わっているのですが,怠慢の誹りを免れない勤務態度,自身の経験を鼻にかけ若いメンバーに高圧的な態度をとっていてチームワークを乱す,無断欠勤や遅刻はないものの就業中に行方不明になることが多々あり,と職場でも浮いた存在になっています。産業カウンセラーのカウンセリングも受けさせているのですが,態度が改善する兆候もなく,所属長も扱いに困っています。人事課としては,X氏に対して何らかのアクションを試みることを検討しています。

【設問1】会社側はX氏に対して次のような対応を考えています。それぞれを実行するについては,どのような点に留意すればよいでしょうか。
 (ア) 就業態度不良につき,出勤停止を命じる
 (イ) 現状チームワークを乱していることを諭し,反省文を書かせる
 (ウ) 別室に呼んで,会社の考えを説明し,退職勧奨する
 (エ) 会社に不利益を与えているので,3ヵ月の減給処分とする
 (オ) 30日以上前に解雇告知を行った後,懲戒解雇とする

 また企画課長からは,別件の打ち合わせ中に,新規事業についての情報を知らされました。上場企業である総合商社N物産と共同で,工業用センサー用のAI(人口知能)の研究開発を行う合弁会社を山陰地方につくる計画があり,現在最終調整に入っているとのこと。
 このまま順調にいけば,このプロジェクトについては半年以内に発表される見込みだということです。グローバルな視点で見ればAI開発においては米系ベンチャー企業U社の後塵を拝しており,今回の事業で業界における地位を確固たるものにしたい,と意気込んでいます。ただし,本プロジェクトは,多数の特許,意匠,営業秘密などの知的財産が絡んでおり,慎重な対応が必要だと考えられます。

【設問2】このような状況において金沢課長あるいは会社側がとる行動として,以下のものはふさわしいでしょうか。またその際,どのような点に留意すればよいでしょうか。
 (ア) N物産との合弁はインサイダー情報なので,社外には口外しない
 (イ) U社に勤める知人に,それとなく最近の情報を聞いてみる
 (ウ) 自社の持つ特許については,合弁会社に専用実施権を設定する
 (エ) 機器取扱マニュアルは営業秘密として,金庫等で厳重に保管する
 (オ) 合弁会社に出向させる社員については,出向同意書をとっておく

 経理課長からは,滞り債権についての相談がありました。金属切削工作機器に内蔵する特殊な検査機器を,中堅の工作機器メーカーZ社に出荷していましたが,ここのところ資金繰りが思わしくないらしく,支払いが遅れがちでした。ついに期日を過ぎても15日間支払いがなかったためZ社との取引を停止したのですが,手形決済ではなく60日サイトで銀行振込による決済だったため,手形不渡りにはならず,現在3ヵ月分の取引金額約1,000万円が滞り債権となっています。

【設問3】Z社に対する対応としては,どの方法が望ましいでしょうか。
 (ア) 支払わない場合は法的手段も辞さない旨,内容証明で通知を出す
 (イ) 支払期限を切って支払うことを約束させて念書をとる
 (ウ) 強制執行承諾文言を盛り込んだ公正証書を作成する
 (エ) 一括で払えないのであれば,分割で払うように交渉する
 (オ) Z社の倉庫に立ち入って,納品した製品を引き上げる

 次は,総務課長との打ち合わせです。ムサシノ社では,これから管理課が主幹となってコンプライアンス室を設置する予定ですが,当面のコンプライアンス案件は総務課が扱うことになっています。総務課長によれば,年に数件の内部告発があるとのことで,金沢課長はこの1年で寄せられた内部告発についての資料を見せてもらいました。その後の対応をどうしたのか気になるところですが,総務課長から「金沢課長ならどう考えますか」と問われたもので,ちょっと面くらってしまいました。

【設問4】次の内部告発の中で,早急に対応しなければならないと思われるものはどれですか。
 (ア) 支店長が庶務の独身女性社員と社内不倫をしている
 (イ) 上司であるA課長が営業車を私用で使っている
 (ウ) 先輩であるB主任が機密情報をライバル社に流している
 (エ) U市の公設試験研究機関の入札において談合が行われている
 (オ) 営業所の売上および利益報告を改竄し水増ししている

 管理課は,これからコンプライアンス室を設置し,全社のコンプライアンス体制を推進していく役割を担っています。金沢課長は,コンプライアンス室準備プロジェクトチームを立ち上げ,部署横断的にメンバーを集めて近いうちにキックオフミーティングを行いたいと思っています。そしていま,そのミーティングで発表すべき,全社コンプライアンス方針の骨子(案)を作成中です。

【設問5】コンプライアンス方針の骨子をつくるに際して,考慮すべき論点あるいは考え方はどれですか。
 (ア) ステークホルダーの利益を最大化する
 (イ) 業界における健全で自由な競争を維持する
 (ウ) 企業市民として社会的責任を果たす
 (エ) 企業活動を行うのに必要な関連法規を遵守する
 (オ) 従業員の安定的な雇用を創出する
 (カ) 検査機器関連の先進技術のパイオニアとなる
 (キ) 倫理綱領などを規定し従業員教育を行う

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