事例2 スケジュールの遅れにいら立つメンバー


 ここではある産業用の電子機器商品を設計している5人のプロジェクトチームでの事例をご紹介しましょう。
 商品はCブロックとIブロックの2つのブロックから成り立ち,CブロックとIブロックは特殊ケーブルで結ばれています。IブロックはCブロックに外部から受けた電源から必要な電圧に変換して供給し,外部のマスターコントロール信号を受けてCブロックを動作させています。
 ここでチーム編成としてプロジェクトリーダーのPLさんの下にCブロック設計担当のCさん,Iブロック設計担当のIさん,CとIの筐体(金属の防水処理をした箱2個)機械設計のKさん,全体をソフトで動作させるようにするソフト設計のSさん,以上の5人の構成で1年後に商品を出荷するスケジュールが立てられています。
 Iさんはこのような機器設計は2回目で一番若く,ほかの人は10年以上のベテランで何度か商品設計を経験しています。PLさんは15年以上のベテランですがプロジェクトリーダーの経験としてははじめてです。

 PLさんはB上司より2つの目標を提示されました。
 1.チームで一丸となって高品質の商品を完成させ,予定通り出荷してほしい。
 2.ベテランメンバーと若い経験の少ないメンバーを混成にしているのでベテランの力
   をうまく発揮させ,Iさんを設計者としてさらに一人前に育ててほしい。
と頼まれています。スケジュールとして設計変更が可能なのは,製造所に渡るまでの10ヵ月間のみになります。

 ここでIさんが原因で最初の設計試作期間6ヵ月が予定より1ヵ月遅れる事態となりました。主にIさんのスロースターター型の仕事運びと,個人のプライベートスケジュールを優先させたことで,チームで一丸となったスケジュールには最初積極的に合意してこなかったこと,PLさんもある程度Iさんのリクエストを許してしまったことに原因があります。
 全体スケジュールは長いように見えますが設計メンバーには一つトラブルが起こると複雑に絡みあい,別のトラブルが誘発されるという状況になります。そのようなトラブルは次々に起きてきますので,優先度をつけながら,誰がいつまでにどのように解決するか,ほかへの影響は何が考えられるか,というリスト項目に対して次々に対策を打っていかないとどんどんスケジュールは遅れていくことになります。
 PLさんが一番困ってしまったのは,Iさんが遅れを出したために,まわりのメンバーも遅れを共有せざるを得ない状況になったときです。Iさんが個人的な理由で定時退出時間が来るとサッと帰ってしまうことに対して「なんだ,あいつは,自分のトラブルを棚にあげて先に帰ってしまうのか!」とチームメンバーから総スカンを食ってしまったのです。
 PLさんはどのようにIさんを叱ったのか,がこのストーリーの顛末になります。

 解 説 ―― 解決策のヒント

【 設問1 】 行動状況確認
 Iさんは曖昧な状況説明に終始して本人も原因がつかめていません。このままいくと予定通りに量産試作段階に移行できないと説明したため,PLさんはそれではなんだかわからない,回路図のブロックや機能に分解してどこがどのように満足できていないのかもっと詳しく説明してほしいとダメ出し(質問)したことがうかがえます。
 Iさんは聞かれれば答えられるのですが,論理的に要素を組み立てて説明することができず,結果のところだけをダンゴ状態に説明する傾向があったのです。
(ヒント:相手に全体像をわかってもらうためには原因となる要素と結果を分けてそれぞれを順序だてて説明する必要があります)

⇒ 設問1の模範解答例:
 ・IさんはPLさんに対して結果として起きた(見えている)ことのみを説明してい
  た。
 ・PLさんは問題を一つひとつ原因となる要素まで立ち入って聞いていき,結果とし
  て見えている問題を理解しようとした。その中でIさんが判断したことを分解して
  聞いていき,判断の曖昧なポイントを探し出した。

【 設問2 】 行動根本原因探求

 この設問の中に出ている3案はどれもIさんは自分の責任でトラブルが起こったという認識がなくまわりのせいで起こってしまったと言っているにすぎません。
 これではまわりのメンバーが納得せず協力も得られません。
 まずは自責の念を言い,まわりの人に迷惑をかけてしまったことを詫び,素直に支援を求める体制をつくる必要があります。

 PLさんはその点をわからせるようにIさんを叱る必要があります。
(ヒント:Iさんの言動に対して自分の責任範囲と他人の責任範囲を紐づけるように説く。まわりのせいでうまくいかなかった。会議が多すぎて自分で集中する時間がない(他責によって遅れる),検討する時間がどんどん取られる,と言っているときは自分だけの集中できる時間内でできる検討項目とチームで会議をしながらトラブル対策をする時間を割り振ろう,と説く)


⇒ 設問2の模範解答例:
 PLさんは先回りしてIさんの気持ちを代弁すること。叱る前に諭すこと。

 1.1ヵ月後:やってみないとわからないと言い続けた。
  ・先にこのようなリスクが潜んでいる,そのときにはこのような限られた対処法し
   かないとあらかじめ宣言しておくようにする。(自責)

 2.3ヵ月後:遅れてはいるけれど原因は曖昧で説明がなく,想定内のことで設計試作
  の中で挽回できると話していた。
  ・曖昧なところをそのままにせず,自分のやるべきブロック内で要素分解し時間を
   決めていく。まわりとのブロック結合ができるのはその要素が全部完成したとき
   でいつできると約束する。(自責)

 3.5ヵ月後:回路動作は予定通りと言ったがうまく解決できるかどうかわからない。
  全体システムでの不要輻射トラブル発生を発表した。お互いにブロックに影響し,こ
  こでクリアできないとIブロック試作品つくり直しで1ヵ月ずれ込むと。
  ・5ヵ月経ったあと,突如1ヵ月の次の量産試作へ渡すときにあと2ヵ月かかる,
   1ヵ月遅れると言わず,皆全体に関わる見えない機能をもっと3ヵ月前,2ヵ月
   前から傾向を言うことでほかの皆が一体になって聞いてくれる状態になる。(自
   責)

【 設問3 】 行動を理解したあとの対策

 設問2はIさんの行動がなぜそうなったかの根本原因を探るところでしたがこの設問3の段階は行動の根本を正してもらうようにするところです。PLさんが相手の心の中を読み,その心を開かせるようにもっていく対処法です。
⇒ 設問3の模範解答例:
 1.Iさんの遅れをカバーするのもチームとしての役目なのだからここは不平不満を言
  うより解決方法を考えようとチームメンバーを動かした。
  ・賛成意見:私もプロジェクトの最初の頃は皆に迷惑をかけたものだ。(Kさん)
   でも皆助けてくれた。→ PLさん:ありがとう,Kさん!
   反対意見:なぜアイツは皆の前でまず謝らないの? 協力するに決まっているけ
   どあんな態度じゃね。(Cさん)→ PLさん:Iさんは自分の殻に閉じこもっ
   ているタイプだからあなたみたいにおおらかになれない性格なんだよ。今回は聞
   いてあげて,Cさん。

 2.Iさんにまずは皆に一言,あなた自身がどうするか,皆にどう動いてほしいかをお
  願いしてみてと言った。
  ・Iさんが賛同のとき:私の真っ先にすべきことはこれとこれです。これからは皆
   さんに影響が及ぶことを優先して行動します。(そして残りのメンバーの人にも
   その考えを聞いてもらい感想を述べてもらう)→ PLさんは事前にポジティブ
   に応援するようお願いしておく。(特に長老のKさんに根回ししておく)
  ・Iさんが否定的なとき:自分のブロックの機能がうまく動作しないと皆さんのブ
   ロックにどう影響するか予測がつきません。(Iさん)→ PLさん,ほかのメ
   ンバー:そうではなく自分のブロックが動く前提でほかへの影響,危害想定(F
   MEA法)をはじめから皆でやっておこう。

 3.Iさんになぜプライベートのスケジュールとチームのスケジュールを比較したとき
  にチームのスケジュールを優先できないの?と聞いてみた。
   プライベートを優先する前にチームとしてやるべきことをやらないと,相手が待っ
  ているだけになってしまうため,メンバーの納得がいかなくなり皆から協力が得られ
  ないよとIさんを叱った。
  ・Iさんが賛同する場合:まず自分のプライオリティはこうなっていると説明し皆
   から理解を得ること。(PLさんからIさんへ)そのうえでチームと約束したス
   ケジュールは死守しますと表明してもらう。
  ・Iさんが否定的な場合:自分のすべきこととプライベートの優先づけは社会人に
   なったら自ずと決まる。その理解はできているかまず尋ねる。(PLさんからI
   さんへ)Iさんがわかっていると答えたとき,その条件でも皆に迷惑をかけずに
   スケジュール内に収める自信はある?とPLさんはその理由を聞く。(Iさんは
   叱られていると感じるはず)それで残りの皆が納得できるか考えてみてと諭しま
   す。

【 設問4 】 スケジュール回復対策

 Iさんの行動がまわりのメンバーに見えるような工夫にはいろいろ考えられますが,機能別に進捗を見せるのはその設計者にしかできないことでまわりにはとても安心感が生まれてきます。品質Q,コストC,出荷時間D,全てにかかわってきますので早めに状況を知らせることが大切になります。
 1.商品の中の機能それぞれの項目に対して進捗表をつくり,ほかのメンバーとの機能
  との時間順に並べてボトルネックを明らかにした。
 ⇒ 進捗会議でIさんの業務の中身がよくわかるようになりほかのメンバーの自分の
  ところへの影響が事前にわかるようになって各自が進捗を合わせるようコントロー
  ルができるようになり,全員から好評を得た。(Q,C,Dともに)遅れないよう
  にはじめから正しく行うやり方を実行していく。

 2.ボトルネックが遅れたときの回復案を事前に皆で討議し,リカバリー対策を外部に
  発注し,同時並行的に動かした。
 ⇒ 遅れた場合は後工程を少しずつ短くして吸収できるか検討し,無理であればお金
  はかかるが時間を前もって買うという考えが可能か検討する。お金が余分にかかる
  のはPLさんの上司に事前にお金をかけて遅れを吸収する場合といまかけないで遅
  れたときのまわりに影響を及ぼすときのコストの概算を出し事前に納得してもらう
  こと。

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