事例2 残業を減らして生産性を高める


● 残業と生産性の関係
 私は,製造チームのリーダーをしています。当社の製品は受注ごとにプロジェクトを組み,納期に間に合わせる,いわゆる一品物の生産をしています。技術力が高いこと,納期を守ることから,お客様からの評判はそれなりに良いものがあると自負しています。私はその職場で長年に渡り,現場一筋でやってきました。技術にはそれなりの自信を持っています。
 ただ,お客様の要望に個別対応しなければならないことから,途中経過の細かい報告等をしたり,後日のために書類を残さなければならないという仕事が増えてきたのです。そのために,度々残業になることもありました。
 そんなある日,本社から残業時間を削ることにより生産性をアップさせるようにという指示がありました。

● ノー残業デーで
 本社からは,毎週水曜日をノー残業デーとして,全員定時に帰るようにと指示が出ていたのです。職場メンバーからは,そんなことができるならもっと前からやっているのにという白けた声が聞こえました。
 それでも,水曜日だけは何とか早く帰るようにしたのですが,その分,土日出勤などもすることになり,残業は減らなかったのです。これは,私の職場だけではなく,他の職場でも同じでした。すると,業を煮やした本社から,残業を減らすために職場ごとの具体策を出すようにと再度通達が来たのです。

● サブリーダーと2人で話し合う
 そこで,サブリーダーの山田君と2人で話し合いをしました。
 私「本社から,残業を減らすための具体策を出せと言われているんだけど」
 山田「またですか…。確かに私達の職場は他の職場に比べると,残業が多いんじゃないですか」
 私「どうしてなんだろうか」
 山田「しっかりした仕事ができるのは,リーダーと私だけで,他のメンバーはそれができないからですよ」
 私「それなら私と山田君の残業が多いのならわかるんだけど,全員が多いんだよね」
 山田「私達が帰らないから帰りづらいんじゃないですか」
 私「そういえば,この間辞めた新人の鈴木君がこの職場は忙しいと言っていたな」
 山田「それもあるかもしれませんね。それに,私達のお客様は細かい要望が多すぎやしませんか。毎日写真を撮って進行状況を教えろって,何様だと思っているんですかね」
 私「そうだよな,おかしいよな」
 山田「でも不思議なんですけど,私達と同じお客様の仕事をしている佐藤リーダーのところは,比較的早く帰っていますよね!」
 私「ああ,あそこは同じ得意先でも物わかりのよい担当者を相手にしているからな。それに比べるとうちの担当者は…」
 しばらく黙った後,
 山田「それじゃ,予定表をつくって残業は計画的に行うということでどうでしょう。これなら本社も納得するんじゃないですか」
 私「そうだな…」

● 再び指摘される
 私は山田君の提案に従い,残業削減の計画書を作成し,本社に提出しました。その中には,残業が必要だと感じたときには残業予定表の事前提出も義務づけたのです。
 それから2ヵ月ほど経って,本社の担当者から残業が全く減っていないというメールが届いたのです。そこには,同じような職場でも佐藤リーダーのところは,確実に残業が減っているとも書いてありました。本社からのメールの最後には,来月には総務本部長が訪問するので,それまでにはっきりした方向性を出すようにとありました。
 しかし,私からすると,佐藤リーダーのところの人材は,私のところより遙かに優秀で,比べものにならないのではないかと思ったのです。私は,人材が揃っていないのだから残業削減は難しいということをなぜわかってくれないのだろうかとカッとなりました。
 それに,事前に残業計画を出すように決めたはずなのに,メンバーから提出されてきたものは残業実施後が多かったのです。理由を聞いてみると,仕事を今日中にやらなければならないと思い作業を続けているうちに,気がつくと定時時刻を過ぎてしまっていたというものが多くありました。それで,いまさら残業予定表を書くのも面倒臭いので,作業が終わってから書いていたということでした。
 個人作業が多いために,工数計画を事前に作成することが難しいのは事実です。それで,残業予定表を事後提出してきたメンバーに対しては,注意はするものの厳しく言い切れなかったのです。
 再度,山田君と話し合い,今後の方針を検討したのですが,これといった妙案が浮かびません。
 山田「それじゃ,佐藤リーダーがどうしているか聞いたらどうですか」
 私「う〜ん」
 山田「でも,残業は減らさなければならないですよね」
 私「そうなんだよ」
 2人ともに考え込んでしまうのです。

 解 説 ―― 解決策のヒント

 近頃,“働き方改革”ということが叫ばれています。一方で,その実態はスローガン的な活動に終始しているところが多いように思われます。実現するには,現場サイドでの工夫が求められています。また経営的には,生産性を向上させることにより,残業時間が減っても収益を高めるという仕事の仕方が求められます。

【 設問1 】
● チームリーダーとして
 残業時間が多いという事実は,データで判断されています。正しい記録を取っているのであれば,データそのものを否定することは難しいのではないでしょうか。
 まずは,データから原因を追及することはできると考えるべきです。水曜日をノー残業デーにするというのは,試みとしてやってみようというレベルであり,それで残業が減ればよいのではという発想かもしれません。しかし,決められた以上は本社の方針に沿った努力をすべきです。ノー残業デーが1つの切り口になって,残業が減っていく可能性はあります。しかし,たった1日早く帰るということでさえ,現場が工夫しなければ難しいのです。上から言われているからやろう,という発想だけではうまくいくはずがありません。
 この職場のリーダーは現場一筋であり,本人も思っているように技術レベルの高さについては自信を持っているようです。しかし,品質が良ければそれでよしという考え方は変化してきています。品質が良いのは当たり前ですが,単にでき上がった製品が良ければ問題なしというだけではありません。そのプロセスも注目されています。お客様から指示されたとおりの作業をしているかも重視されるようになってきました。すでに,得意先からの細かい要求などはごく当たり前のことになっています。
 現場では,外からの要望,社内からの指示という決められたものをコントロールしていくことがチームリーダーとしての仕事なのです。具体的な対処策が見つけにくいのが事実です。それでもやらなければ先にすすまなくなってしまいます。
 技術には専門技術と管理技術の2つのものがあります。リーダーとしてやらなければならないのは,この2つの技術に磨きをかけることです。特に,後者については,このリーダーはあまり気に掛けていないようです。そのためか,残業予定表が遅れて出てきてもあまり気にせずに処理しています。もしかするとこのリーダーは,残業時間を管理することはあまり意味がないという考えがあるのかもしれません。
 残業が多いから減らそうという背景には,時代の流れがあることを忘れてはなりません。それは,投入する時間を減らしてアウトプットである産出を増やし,個々の人に働き甲斐を持たせようとするものです。
 組織の機能としての側面だけではなく,個人を尊重しようという考え方があるのです。そのために残業時間は減らさなければならないという前提があります。
 リーダーには辛いかもしれませんが,現在の仕事のやり方を否定することからはじめなければなりません。現状を否定することは,これまで自分がやってきた仕事を否定することに近いものがあります。これまで,このリーダーは残業の管理を各人に任せることが多かったのではないでしょうか。この任せるという管理のすすめ方をまず検討すべきでしょう。このリーダーは,仕事を任せるということと放任を混同しているのではないでしょうか。
 任せるとは,専門技術だけではなく,管理技術を含めてそのレベルにある人に対して任せることです。一方で,そのレベルにないのであれば,リーダー自らがコントロールしなくてはなりません。ルールを決めて,そのとおりにすすめればうまくいくはずだという考えは,少し甘いかもしれません。そのプロセスで,誰がチェックをするかが抜けているからです。この職場リーダーは,それができていません。リーダーは,得意でないこと,嫌だと思っていることでも,やるべきことはやらなければならないのです。

【 設問2 】
● サブリーダーと向き合う
 ところで,山田君の第一声「またですか…」についてどう思いますか。
 この言葉は,職場によっては,意外と使われているものです。第一声で「そうですよね…」と受け入れるのと「またですか…」と否定するのでは格段の差があります。
 職場をよく観察していくと,その職場が持っている風土(集団規範)に気づきます。風土は職場の人が使っている言葉に表れるものです。それも,職場の要となる人の言葉を聞けばわかります。
 山田君の第一声「またですか…」は風土そのものを表している言葉です。読者の皆さんは,この「またですか…」からどんな職場を連想しますか? いきいきした明るい職場を連想しますか? 答えはノーのほうが多いと思います。おそらく重い,前向きではない職場を連想するのではないでしょうか。
 風土(集団規範)とは,職場の見えないルールです。いくらリーダーが「やろう」と言ってみたところで,前向きではない職場では思うように動かないのです。
 そこで,山田君との会話の最初の時点で,山田君の考えを肯定せずに,否定することです。ここでいう否定とは,山田君の考えは間違っているぞ,というレベルのものではなく,リーダーとして自分の考えをはっきり示し,断言することです。これをしておかないと,現状を変える案は出にくくなってしまいます。
 波風を立てないやり方としては,現状の残業時間などのデータをベースに,どうしても残業を減らさなくてはならないという背景を前向きに説明することです。それでも山田君が反発するようであれば多少強く言ってもかまいません。場合によっては,「それは違うだろう…」レベルの言葉で押さえ込むことも,やむをえないかもしれません。意見を聞き,一緒に考えるのは大切なことですが,具体策はリーダーが考え,山田君に伝えなければなりません。
 このリーダーは,本来自分がやらなくてはいけないことを他人と相談,他人に意見を求めることをしています。だから結論は,当たり障りのない計画表づくりになってしまうのです。計画表づくりは,是非やって欲しいものですが,「上層部に出しておけばいいかな…」というレベルのものであってはならないのです。山田君に,このリーダーは本気ではないなと見破られてしまいます。
 仕事を変えていくには,リーダーと山田君がなあなあの関係であってはならないのです。部下がやる気がないのなら,自分一人でもやり抜いてみせるという気概が欲しいのです。
 そして,組織を動かすために差をつけた平等を定着させることです。リーダーと山田君は差がなくてはならないのです。指示・命令の関係がなくては動かないのです。もし本当に組織が平等であるならば,職位による権限や責任の違いなど必要がないことになります。職場リーダーは,なぜ自分が職場リーダーとして指名されたのかを理解しなければなりません。
 2人してこれなら上から文句を言われないだろうと思いながらも,心のどこかでうまくいくはずがない,という思いがあるとすればものごとは失敗します。上下関係の中にも2人の信頼感が必要なのです。そうならないためには,まず前提として2人でひとつの方向を見ることを考えるべきなのです。

【 設問3 】
● 生産性アップの手順
 職場リーダーとして,何としても残業時間を削減して生産性を上げなければなりません。そのためには,まずどのような手順で残業時間を削減していくかを考えてみる必要があります。
〈現状把握〉
 生産性が上がらず,残業時間が増えてしまう背景には,@人数が足りない,A仕事が集中する,Bやることとやらないことがはっきりしない,Cメンバーのスキルにバラツキがある,D怠業がある,の5つがあります。
 この5つは,それぞれが単独のものではなく,相互に関連したものです。そのためには,現実にどの要因が多いかの現状把握をしてみることです。
 @ 人数が足りない……人数が10人必要なところに7人しかいないというケースです。これが定常的になるとメンバーの疲労が蓄積し,モラールがダウンします。「仕事はどうですか」という質問を受けて,「暇です」と答える人はまずいないはずです。例外なく,「仕事は忙しくて…」と答えるはずです。つまり,仕事は忙しいものなのです。仕事の改善をしないで人数が足りないとなると,単に人を増やすだけとなり,結果としてコストを押し上げ,競争力がなくなってしまうことになりかねません。
 A 仕事が集中する……人員を仕事のピークに合わせるのか,少ない時期に合わせるのか,あるいは平均点なところを取るのかは迷うところです。仕事を平準化したり,中にはピーク時には目一杯残業をして,少ない時期に思い切って職場を締めてしまうということをしているところもあります。このように仕事の集中に合わせて体制を整えていくことを工夫してみることです。
 B やることとやらないことがはっきりしない……お客様からの要望であるかないかを確かめず,過去そうしてきたことから,そのまま続けているものです。よく見られるものに,必要のない管理書類を作成保管している場合があります。あるいは,同じような書類を部署ごとに作成していることもあります。
 C メンバーのスキルにバラツキがある……仕事を他の人に任せようとしても,できる人がいないために特定の人が仕事を抱え込んでしまうというものです。
 これについてはスキルマップ(図表3)という手法が有効です。ワンポイントレッスンで後述します。

 気をつけなければならないのは,表面的にはスキルのバラツキがあるように見えて,実は特定の人が仕事を抱え込み,他のメンバーにはわからなくしてしまい,難しい仕事であると思い込ませてしまっているケースです。ベテラン社員が仕事を抱え込んでいるときは,職場のリーダーが介入していかなければなりません。つまり,本当にそうであるかを検証することです。これを行わないと,職場のリーダーの権限はベテラン社員に奪い取られてしまうことになりかねません。
 D 怠業がある……怠業はその語句のとおり,怠けることです。これは,見極めるのに難しい面もあります。明らかに職場にいない,休息ばかり取るというレベルはわかりやすいもので

す。ところが,わざとゆっくりやっている,それも意識をしないでゆっくりやっている場合には見極めが難しいところがあります。さらに,職場全体でゆっくり行われたりすると判断に苦しむこともあります。
 これは,車の渋滞と同じようなものであり,なぜ遅くなっているのかという原因が掴みにくいところがあります。職場は目視できる範囲ですが,なぜ遅いのかわからないところがあるのです。これは,職場の風土(集団規範)となっているものであり,これだけはできるはずであるという数値を示すことによって,怠業は改善されるものなのです。
 この5つを把握したなら,課題を明確化し,解決に向けた手順を検討しておきましょう。仮に残業時間が減っても,生産量が減ったのであれば,生産性が低下してしまいます。単に時間を短縮したことに一喜一憂するのではなく,生産性が本当に高いのかどうか(改善したかどうか)を見極めることです。

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