事例2 フォロワーとしての立ち位置と言動


 小池は,ゼネラルハウス株式会社の千葉支店,第一営業グループの主任です。この会社はシャッター・門扉・サッシを中心とした住宅設備の生産・販売会社です。直接の顧客は工務店・ハウスメーカー・ホームセンターなどであり,その顧客に対して販売促進活動・情報提供活動を行っています。ここ千葉支店の業績は,全国的には中位にランクされています。小池の担当するエリアは,新築着工件数が伸び悩んでいることや,競合会社が駅前に支店を開設したこともあり,激戦区の一つになっています。
 ゼネラルハウスは,昨年から全社的に成果主義的色彩が濃い「新人事制度」を導入しました。従来の年功序列型の人事制度では,成果をあげた社員と他の社員の評価に差異がほとんど発生せず,このような人事制度では,本当に努力している社員や,成果をあげた社員のモチベーションを維持・促進していくのは困難であると考えました。そこで今回の評価制度では,期初に課長とメンバーが目標を設定して,その達成度合いによって,翌年の昇給・賞与に成果に応じた差が生じることになったのです。
 小池の上司である近藤課長は,優秀な営業パーソンとして全社的にも知られた存在です。入社以来,自身の営業目標は必ず達成してきました。課長に昇進してからも,個人としての目標数字はもちろんチームの数字も達成しています。課の営業方針についても明確に設定し,厳格な姿勢で指示を出して,部下にはそれを確実に実行することを求めます。
 新人事制度である目標管理制度における今年度の営業課の数値目標は,全社目標と比較してもかなり高めに設定されています。売上目標:前年比120%,営業利益率:前年比120%,新規得意先開拓目標:前年比110%です。課員全員それぞれがこの数値を必達することが求められています。昨年から導入された新人事制度の目標管理制度についても,課長自身も前向きに捉え,目標達成意識はより高まっています。
 ただし,小池は,近藤課長は小池の担当するエリアには,あまり足を運んでおらず,現場の実態がわかっていないのではないか,と不安に思いました。少子高齢化がすすんでおり,いくら東京に通勤する人たちのベッドタウンを抱えているとはいえ,かなり難しい数字のように感じました。
 ある日,小池は近藤課長との目標設定面談で次のような指示を受けました。
 近藤課長:「売上目標の件だが,課全体として厳しい状況なので,君のチームには前年比120%とはいわず,130%を目標にして欲しい。君の後輩の中田君にもそう伝えて欲しい。よろしく頼むよ」
 小池は,前年の30%増は厳しいだろう,無理だと思いましたが,課長の言うことには逆らえず「はい」と言わざるを得ませんでした。その後,後輩の中田には,「課長から,うちのチームは売上目標を130%にしてくれという指示があったから,君もそのつもりで営業してくれよ。よろしく」と伝え,何とか課長から言われた数字を達成しようと,次の日からよりいっそう営業活動に励みました。ただし,120%達成も簡単ではない状況であるにもかかわらず,130%はやはり無理だと思いはじめたのでした。
 それでも,小池は体裁だけでもつくらないといけないと考えて,受注が確定していない案件についても,月末にはとりあえず売上を計上して,目標を達成するようになっていました。小池としては,年間で帳尻を合わせればよいという軽い気持ちでした。
 ところが,小池の得意先であるK工務店が,不渡りを出して倒産してしまう事態が発生しました。K工務店については,今月に納入を約束していた案件があり,先月に売上を計上済みでした。ゼネラルハウスでは,納入してはじめて売上が発生するというルールがあり,これは完全にルール違反でした。
 小池は頭を抱えてしまい,どうしてよいかわからなくなり,1年先輩の営業課員で同じ主任である太田に相談しました。太田はおとなしい性格ですが,後輩から慕われている存在です。「それは困ったな,課長はだからダメなんだよな。無理な目標を押しつけるだけで,何もフォローもしてくれないからな。ただし,このままだとマズイことになるな…。正直に課長に報告するしかないんじゃないか…」と言うだけでした。
 また,目標管理制度が導入されてからは,みんな個別の目標達成を追求する姿勢が強くなり,従来の強みであったチームプレーが疎んじられ,個人主義に走る営業パーソンが目立ってきました。そのため,情報の共有やコミュニケーションがとれない,といった問題も出はじめました。

≪解題≫
●リーダーシップとフォロワーシップ

 このケースは,部下である小池のフォロワーシップの発揮の仕方を問うことはもとより,フォロワーシップの裏返しである上司の近藤課長や小池自身のリーダーシップのあり方を確認するケースです。また,今後の組織発展に向けて,組織構成員であるリーダー,フォロワー双方がどのようなスタンスで仕事に関わっていくことが必要かを考察することも求められます。
 フォロワーシップとは,部下(フォロワー)が自主的な判断や行動により,上司を支え,組織における成果の最大化に貢献することを意味することは既に述べました。一説には,組織が出す結果に対して,リーダーが及ぼす影響は2割,フォロワーが及ぼす影響は8割ともいわれます。上司がプレイングマネジャー化して部下に十分に目が届かなくなっている現状においては,いかに「組織としての力」を引き出すことができるかが課題といえます。
 また,現代の上司の最も多い悩みは「部下がなかなか育たない」こととも言われています。自身のプレイヤーとしての業務を含めて業務量が多い中で,部下の育成に時間も手間もかけられずに苦心しているからであると推察されます。

 そのため,リーダーがプレイヤーとしても忙しく,部下と関わる時間が短い現状では,これまでのように組織をリーダーシップだけでまとめて,引っ張っていくことは難しくなっています。そこで注目されているのがフォロワーシップということです。

■リーダーシップとは
 組織や集団の目標達成に向けて牽引して行くために,部下(メンバー)や周囲に対して発揮される対人影響力
■フォロワーシップとは
 目標達成に向けて,リーダーを支えるために発揮される支持・解釈・補完の力とそれを行おうとする姿勢

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