1.今,エフェクチュエーションが注目される理由


成功した起業家たちの共通点

 成功する起業家やリーダーたちは,新しいビジネスを始める際,どのように行動するのでしょうか。その共通する考え方や行動原則を知りたいと思いませんか。
 この疑問に答える論理が「エフェクチュエーション」です。この言葉は,米国バージニア大学ビジネススクールのサラス・サラスバシー教授が2008年に発表した論文で初めて登場しました。サラスバシー教授は優れた起業家たちに協力を依頼し,実験を通じてこの論理を確立しました。
 この研究から明らかになったのは,成功した起業家たちは,新しいプロジェクトを立ち上げる際,未来や外部に答えを求めるのではなく,自分の手元にある資源,つまりコントロールできる要素からスタートしたなどの共通点がありました。

エフェクチュエーションが注目される背景

 エフェクチュエーションは,成功した起業家たちに見られる行動原則です。しかし,この考え方は,企業における新規事業開発,既存事業の見直し,マーケティング,研究,営業などの経営判断やリーダーとしての行動についても適用できます。
 現代社会はVUCA(Volatility:変動性,Uncertainty:不確実性,Complexity:複雑性,Ambiguity:曖昧性の頭文字をとった言葉)といわれ,先が見通せない不透明

で不確実な環境とされています。新型コロナウイルスの影響,少子高齢化,気候変動,自然災害,さらにはITやライフサイエンスなどの急激な技術革新によって,未来はますます不確実で変化が激しく,複雑なものとなっています。
 エフェクチュエーションは,そのようなVUCAといわれる状況下においても,最善の意思決定につながる思考や行動のフレームワークと見なされているのです。


エフェクチュエーションとコーゼーションとの違い

 エフェクチュエーションは,従来的なビジネスの思考・行動のフレームワークである「コーゼーション」との比較で説明をするとわかりやすいでしょう。
 コーゼーションは「ジグソーパズル」にたとえられます。事前に調査と計画を行い,明確な目標と完成図を設定し,そこに向かってピースを埋めてパズルを完成させるイメージです。対して,エフェクチュエーションは「パッチワークキルト」のように,手元にある材料(資源),アイデアを自由に組み合わせて1枚のキルトを生み出します。
 料理でたとえると,コーゼーションは,プロの料理人が提供する相手を想定して最適なメニューを決定し,その達成に必要な食材を調達するアプローチです。一方のエフェクチュエーションは,冷蔵庫の中身や持ち寄った食材で柔軟に料理をつくります。
 この説明を聞いて,「プロの料理人が最高の食材でつくる料理のほうが美味しいに違いない」と思う人がいるかもしれません。しかし,実際には,高級食材を当てるクイズ番組でも,グルメで名高い芸能人が間違えることは多々あります。プロと素人が同じ条件で料理をつくり,コンテスト形式で評価した結果,素人の料理がより高評価を獲得するケースも少なくありません。
 起業の世界でも評価軸は多様であり,何が成功を収めるのか不確実です。そのため,エフェクチュエーションのように柔軟なアプローチが有効に働く場面が多いのです。両者の違いを理解することで,状況に応じてどちらのアプローチがより適切かを判断する力が身につきます。一方が常に優れているわけではなく,目的や状況,利用可能な資源に応じて使い分けることが重要です。

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