10.リスキリングを成功させるポイントは? 事業戦略に紐づいたスキルを習得させる

納得感を持って学びに専念させるには?

 リスキリングでは,個々の社員にどのようなスキルを習得させるのかということも重要なポイントとなります。
 ひと口にDX人材といっても,15ページでも述べたように,ビジネスプロデューサーにビジネスデザイナー,テックリード,データサイエンティストなど,さまざまな職種があります。それぞれの役割や専門性は大きく異なるので,どの人材に,どのような職種になるためのリスキリングを行わせるのかということは,事前に明確な合意形成をしておく必要があります。人材ごとの経験や適性も十分に考慮したうえで,学ばせるカリキュラムを選んだほうがいいでしょう。もちろん,本人の希望をある程度踏まえたうえで選定すべきなのはいうまでもありません。
 特に重要なのは,会社の事業戦略に紐づけて必要とされる職種を選び,その職種を得るためのリスキリングを行わせることです。
 たとえば,事業戦略を遂行するためのポイントが「データ活用」であれば,データサイエンティストを重点的に育て上げる必要があります。また,全社のDXプロジェクトを取り仕切れるような人材が社内にいなければ,リーダーシップなどの適性を持った候補者を数名立て,ビジネスプロデューサーを育て上げるという経営判断もありうるでしょう。
 いずれにしても,「今後,どのように事業を展開していくのか」ということを出発点として,その遂行のために必要な知識やスキルを習得させることが,リスキリングを成功へと導きます。社員にとっても,「なぜ,この知識やスキルを習得するのか?」という目的が明確になり,納得感を持って学びに専念できるようになるはずです。

コンサルティング会社など外部の力を借りるのも一策

 逆に,絶対に避けるべきなのは,何の目的も計画もなく知識やスキルを身につけさせようとすることです。よくあるケースが,「人気のある資格だから,とりあえず『データサイエンティスト検定(24ページ参照)』を受験させてみよう」といったように,

業界や競合他社の動向などを見渡して,“右にならえ式”にリスキリングを行わせることです。
 会社からの命令なので,頑張って学んではみたものの,結局,会社としてデータ活用に力を入れることはなく,せっかく取得した資格が宝の持ち腐れになってしまうということがよくあります。高度な知識やスキルを身につけさせたにもかかわらず,それを活かせるポストが社内にはないのでは,社員に転職のきっかけを会社が与えるようなものです。
 こうした失敗を犯しやすい会社は,事業戦略とリスキリングの計画がほとんど紐づいていないか,そもそも事業戦略自体が明確に定まっていないことが多いようです。
 まずはしっかりとした事業戦略を策定し,その遂行のために必要となる職種を絞り込んだうえで,必要なリスキリングを社員に行わせるというステップを踏むことが大切です。
 また,リスキリングを成功させるためには,社内の知見だけでカリキュラムづくりやプログラムの選定を行うのではなく,コンサルティング会社や社会人向けの教育サービス会社,人材サービス会社といった,外部の知見やサポートも必要に応じて利用したほうがいいでしょう。特に,デジタルやDXのトレンドは目まぐるしく変化します。変化を把握できず,時代にそぐわない教育を行ってしまっては,無駄な投資になりかねません。
 さらにいえば,リスキリングと一般的な社内研修とでは,効果的な教育方法や運営ノウハウなどが大きく異なるので,自社のリソースだけでは十分に機能しないことが多いようです。そもそも事業戦略が明確になっていない場合は,コンサルティング会社に戦略づくりから,それに紐づいたリスキリングの計画づくりまで,トータルに支援してもらうのも効果的です。

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