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ビジネスにおけるサステナビリティの位置づけ
近年,「サステナビリティ」と呼ばれる領域に大きな注目が集まっています。サステナビリティとは,日本語で「持続可能性」を意味する言葉であり,地球温暖化,資源の枯渇などの環境問題や,貧困・強制労働などの人権問題を思い出される人も多いでしょう。ほかにも,安全衛生の確保や,経済の安定成長なども,社会が持続していくには重要な概念です。将来世代が豊かに暮らしていけるよう,社会の持続可能性を高めていくことは,いまや人類共通の課題といえます。
一方,企業にとっては,こうした社会問題の解決に寄与するための取り組みは,慈善活動,あるいは社会的批判を回避するための手段としてとらえられることが主流でした。企業の本業とは異なる,いわば余力の部分で実施するものとされてきたのです。
しかし近年,SDGs(エス・ディー・ジーズ:2ページ参照)の登場や気候変動問題への世界的な注目の高まりを契機に,企業活動に対する要求は加速度的に高まっています。インターネットやSNSの普及により,社会に負の影響を及ぼす企業は,すぐに世間の知るところとなり,大きな批判にさらされるようになってきました。
ひとたびこうした事態が生じれば,取引の喪失,ブランドの毀損,人材の流出など,企業に深刻な影響が発生します。企業経営において,社会への悪影響をないがしろにすることのリスクが,従来とは比較にならないほど大きくなってきているのです。
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社会課題解決をビジネスの中核へ
さらに最近では,事業による負の影響をゼロにするだけでなくプラスにする,つまり事業を通じて収益を得ると同時に社会の課題解決にも貢献することが,企業の役割として求められるようになりました。製品・サービスを提供する過程で人権問題や環境破壊などを引き起こさないことだけでなく,それ
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らを顧客に利用してもらうことにより,社会課題の解決に貢献することが,企業に対する期待となってきています。
例えば,ヨーロッパやアメリカ,中国などの多くの国々において,気候変動問題への対応をうたい,自動車メーカーがガソリン車から電気自動車へのシフトを進めているのもこの一例です。
車を製造して販売するとい
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う自動車メーカーの本業を通じて,車両走行時のCO2(二酸化炭素)排出を削減し,地球温暖化の抑制という社会課題への貢献を図ることで,車そのものの価値に加え,社会に対する価値をも付与しているのです(もっとも,ガソリン車から電気自動車への転換が,バリューチェーンをトータルで見たとき,本当にCO2削減につながるかについては,多くの意見・議論があります)。
そして,このような動きは,最終製品・サービスを手掛ける大企業にとどまらず,バリューチェーンの上流に位置するサプライヤーや関連企業にも,協力要請という形で伝播しつつあります。大企業に対する社会の目は,その企業自身のみならず,その製品・サービスの創出に携わるすべての企業や組織に向けられるようになったためです。すると必然的に,その大企業はバリューチェーンの構成企業に対しても,社会への貢献を求めるようになり,それができない場合には,取引の停止を要請せざるをえなくなります。小さな企業であっても,社会課題への対処をおろそかにすると,取引機会を失い,生き残ることが困難になる時代が近づいているのです。
いまや,サステナビリティという概念は,社会の持続可能性に加え,それに貢献することで得られる企業の持続可能性,というもう1つの側面を持つにいたりました。企業の本業に社会的価値の付与を求めるこのような動きは,持続可能な社会の実現を求める消費者意識の高まり,および政策の強化などにより,今後ますます加速していくでしょう。これからの企業は,サステナビリティを付帯的な要素ではなく,本業の中心に据えて取り組んでいかなければならないのです。
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