5 技術者はダメな理由をどんどんあげるのが得意?

 これは私見ですが,技術者というのは「ダメな理由をどんどんあげる」のが得意な人が多いように思います。これは,技術者には論理的な人が多く,生産管理の3要素であるQCD(品質:Quality,コスト:Cost,納期:Delivery)を担保するためにある種日々培った職業病的な性格であるともいえるのです。ファシリテーションの観点からはこの性格が邪魔になることがあります。

◆ ダメな理由をどんどんあげて失敗する例

 たとえば,あなたは製品開発部のメンバーであったとします。ある日,あなたはとても良い新製品のアイデアを思いつきました。それで,あなたはさっそく製品開発部のほかのメンバーにそのアイデアを披露します。当然あなたは同僚たちから絶賛されることを期待していましたが……。
 同僚たちからは「それは誰がつくるのですか?」「性能が出るとは思えません」「その開発費はどこから出るのですか?」「競合製品の数倍の値段になっちゃいそうですね」「現在の技術力では製品化は無理じゃないですか」「これ売れますかね?」などなど,これでもかというようなネガティブなコメントのオンパレード。
 同僚たちはあなたに悪気があってダメ出しをしているわけではありません。むしろあな

たの製品アイデアについて真面目に考えた結果,ダメな理由をどんどんあげてくれているのです。でも,あなたはすっかり落ち込んでしまい,自分のアイデアを同僚に披露したことを後悔します。

◆ ダメな理由をどんどん

 あげたほうがよい場合もある


 「うちの職場も似たような感じだな〜」と思った方,いらっしゃるのではな

いでしょうか。思いついたばかりのアイデアなんて,当然ながら不完全なところばかりで,そこを大事に育てて少しずつしっかりした企画にしていくことが大切なのですが,「ダメな理由をどんどんあげる」のが得意な技術者は,ついついツッコミを入れすぎて,せっかくのアイデアの芽を摘んでしまうことがあります。こういう職場から画期的な新製品が生み出されるとは思えません。これは明らかに問題です。
 一方で,「ダメな理由をどんどんあげる」というのが有効な場合もあります。たとえば,出荷直前の製品のレビューを行う場合。これから出荷される製品ですから,不完全なところがあっては大問題です。これは厳しくチェックする必要があります。こういう場合には「ダメな理由をどんどんあげる」という能力はとても有効に機能すると思います。

◆ 場面によって使い分けることが重要

 要は,場面によって「ダメな理由をどんどんあげる」ところと封印すべきところを使い分けることが重要です。出荷直前の製品のレビューを行う場合などには,「ダメな理由をどんどんあげる能力」を大いに発揮して,不良品が出ていくことをしっかり防止すべきです。逆に,新製品のアイデアについて話し合う場合などには,「ダメな理由をどんどんあげる能力」は封印すべきです。
 そして,このような場合には,相手の提案に対して「そうですね」とまず肯定したあと,「それに加えて」「さらに」と話を広げていく,「Yes, And」という話法がとても有効です。ツッコミ型のスタイルが身についている方には慣れるまで練習が必要になると思いますが,ぜひマスターして使い分けることをおすすめします(図表5)。

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