7.バランス型リーダーシップ──人間的な関わりと指導を増やす


◆ 部下の意欲を能力の向上に結びつける

 若手社員のときは成長意欲が先走り,難しい課題に取り組もうとする時期があります。しかし,スキルが追いついていないので失敗も多く,自信を失いやすい時期だともいえます。リーダーは,メンバーのやる気(内発的動機)を失わせないように注意しつつ,うまく成長曲線に乗せる関わり方をしなければなりません。
 意欲的でスキルの低いタイプの場合,積極的な人間関係と指示的行動を取る「バランス型リーダーシップ」(9ページ参照)が基本的な指導方針となり,具体的には次のような対策を講じることが効果的です。

◆ リスクを見越しながら部下を信頼する

@ 小さな権限を与える
 鈴木さんのような社員は,やる気に満ちているので,日々の業務を淡々とこなすだけでは飽き足りません。このタイプには,小さな権限を少しずつ渡し,本人の自己決定感や有能感を満足させていきます。例えば,小規模でリスクの低いプロジェクトのリーダーに指名する,会議で業績報告のプレゼン担当を任せる,売り上げの小さい得意先についてはひと通り任せる,などです。難易度は,頑張れば達成できそうなレベルの業務を預け,その範囲を少しずつ広げていくことで,「頼られている」「成長している」という実感がわき,仕事がより面白くなっていきます。
A リスク管理をする
 モチベーションが高い部下は頼もしく見えるので,上司も業務を丸投げしてしまい,後で大きな失敗となって返ってくる場合があります。そうしないためにも,業務の進捗状況は密接にやり取りしなければなりません。具体的には,「業務に伴うリスクをあらかじめ想定しておく」「失敗をしていないかこまめに聞き取る」「失敗した場合のフォロー案を用意しておく」の3つを毎回くり返すことが大切です。
 部下の失敗は,上司の仕事の割り振りの失敗でもあります。部下が失敗しても大きな傷を負わないように,手ごろなサイズの仕事を割り振るようにしましょう。
B コーチング,ティーチングのバランス
 一方で,むやみに権限を与えると失敗も増えてきます。ここで大切なことは,メンバーに対するコーチングとティーチングのバランスです。

 ●コーチング ―― 質問や対話によって,部下が自ら能力を引き出す指導法
 ●ティーチング ―― 知識や技術を教えて,部下にその通り行ってもらう指導法

 これらの指導法は,状況や相手に応じて臨機応変に使い分けます。コーチングとティーチングには,それぞれメリットとデメリットがあり,コーチングに偏りすぎると,メンバー1人ひとりの指導に長時間を費やし,効果が出るまで時間もかかります。また,相手に経験やスキルがないと発想が未熟なままで,失敗しやすくなります。
 逆にティーチングに偏ると自分自身で考えなくなり,やる気と自立心を削いでしまいます。どちらも一長一短あるので,TPOに応じて指導法を使い分けましょう。

C ストロークを大事にする
 小さな権限を与えると,最初は失敗も多くなり,やる気のある社員ほど挫折したときの精神的ダメージも大きくなります。このときに大事なのは,「無条件の肯定的ストローク」です。無条件の肯定的ストロークとは,結果を問わず相手の行動や考えを肯定的にとらえるすべての行為を意味します。具体的には次の行動があげられます。

・ 目があったら笑顔で「おはよう」と挨拶する
・ 「いつも頑張っているね」などとこまめに声をかける
・ どのような発言でもひとまずは受け止める
・ 相手が失敗したとき,反省や対策を求める前に,まずその気持ちを受け止める

 こうした上司の態度は信頼関係を生み,部下が安心して仕事に取り組める心理的な基盤をつくります。簡単なようで,できていない上司が多いのでご注意ください。

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