6.能力は低いが意欲の高いタイプにはやる気を空回りさせない工夫が必要


◆ 能力を伴わない積極的な行動は諸刃の剣

 入社して1年近くが経過し,初歩的な業務や職場の空気に慣れてくると,次に自分で仕事を動かしたい(自己決定感),その仕事を最後までやり遂げたい(達成動機),自分の能力でチームに貢献したい(有能感)という意欲が芽生えてきます。
 このように自分の内側からわき起こる“やる気”を「内発的動機」と呼び,個人の成長には不可欠な要因とされていますが,鈴木さんのようにやる気と実務が空回りしてしまうケースが少なくありません。みなさんの職場にも,やる気はあってもミスが多い,積極的に発言するが的外れ,難しい仕事を求めるが実力不足,こういったタイプのメンバーが若手社員などに見当たらないでしょうか。
 鈴木さんのように意欲があり前向きな発言をするメンバーは,職場に活気をもたらします。チームの士気を上げる点でもリーダーにとっては大切な存在ですが,空回りしやすいタイプに適切な指導を行わないと,チームにとって最もリスクが高い社員になってしまいます。例えば,採算や納期,人員などを考えずに勝手に商談をすすめて,リーダーが気づいたときには後戻りできないような最悪の状況も考えられます。
 このような猪突猛進型の社員を,どうコントロールしていくかは,リーダーにとって極めて重要な問題です。

◆ 意欲に押されて判断を誤った事例

 ここで私の失敗談をひとつ紹介します。コミュニケーション研修の会社を起業して3年目,生徒数が急増して既存の講師陣では対応しきれなくなり,急いで求人を出しました。応募者の中に「日本一の講師になりたい!」と意気込みを語っていた方がおり,経験は浅かったものの,その情熱に打たれて研修もそこそこに現場を任せたのです。しかし,講義がはじまると生徒の定着率は極めて低く,受講者数が約300人中,最後まで残ったのは30人ほど。SNSにおける会社の評価も下がり,経営的にダメージを被りました。
 この一件によって指導の重要性を再認識した私は,講師のタイプ,レベルによって育成法や向き合い方を変えるようにしました。そして,現在ではその彼も人気講師として会社を支える重要な一員になりましたが,その潜在能力を開花させるも腐らせるもリーダーの対応しだいだと実感しています。
 次に,意欲と能力が乖離しているメンバーに対しての指導法を解説していきます。

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