1.仕事の優先順位をどうつけるべきか


◆突然の異動

 電気設備会社の海外事業部に所属している相田さんは,年末・年始の休暇中に事業部長から電話をもらいました。東南アジア部門担当の井上課長が休暇中に倒れて入院し,緊急手術を受けたとのことでした。復帰は早くても半年先で,海外出張はできなくなるそうです。そこで緊急の会議が開かれ,正式な発令は休暇明けになるが,相田さんに東南アジア部門を課長として担当してもらうことになったと知らされました。
 ついては,申し訳ないが現在担当しているインドの発電所プロジェクトの引き継ぎを後任担当者に行うために,休暇明けを待たずにインドへ出発して欲しい。その前に4月以降の東南アジア部門の事業計画や,山積している書類,メールに目を通して処理,指示をして欲しい。書類やデータはすぐにわかるように会社の相田さんの席に送付してあるとのことでした。インドの発電所は交通も通信も不便な所にあるため,引き継ぎには10日かかります。また事業計画などの提出書類は休暇明け後すぐに提出することになっています。出張準備もあり,会社に行けるのは今日の午後,2時間程度です。そのため,相田さんは出社して書類やメールに目を通し,処理,指示をすることにしました。休暇中なので,だれにも連絡や相談はできません。
 使える時間は2時間程度しかありません。相田さんは山積している書類やメールをどのように処理,指示をすればよいでしょうか。以下の4つの選択肢から最も適切だと思うものを1つ選び,その理由を説明してください。


 選択肢 

@ どのような書類,データがあるのかわからないので,時間の許す限り並
  べてある順番で処理,指示していく
A 全体を見渡し,すぐにできるものを選び,優先して処理,指示していく
B 短時間で的確な判断はできないので,どのような書類,データがあるか
  の把握に努め,東南アジア部門の担当者に処理や判断を任せる指示を行
  う
C 全体を見渡し,まず緊急を要するものはわかる範囲で指示し,管理職で
  ある自分が判断し方向性を示す必要があるものは処理し,そのほかは任
  せるようにする


 考え方のヒント 

 どのように優先順位をつけて仕事をすすめていくべきか,を考える問題です。仕事の優先順位づけはマネジメントではとても重要です。しかし,この優先順位づけができないリーダーが多いのも事実です。優先順位づけができないリーダーは,部下の都合も考えずに思いつきで仕事を指示したり,自身で多くの仕事を抱えて身動きができなくなる傾向があるようです。
 やるべき仕事や解決すべき問題の優先順位を考えるうえで活用したいのが「緊急重

要マトリクス」(図表1)です。仕事や問題を「A緊急かつ重要」「B緊急だが重要でない」「C緊急でないが重要」「D緊急でもなく重要でもない」の4種類に分類します。
 期日の迫った会議,資料の作成,クレームや不良品対応は「緊急かつ重要」です。すぐに着手や指示をする必要があります。「緊急だが重要でない」は,一見緊急なようにみえて,調整や交渉で着手を遅らせることができる仕事や問題です。形骸化した報告や会議等も含まれます。「緊急でないが重要」は,仕事の準

備や計画,立案,コミュニケーション,能力開発などの自分でなくてはできないことや将来のことです。「緊急でもなく重要でもない」は見せかけの仕事や本来中止,省略できる仕事のプロセスなどです。基本的には「緊急かつ重要」なことにまず着手し,次に「緊急でないが重要」なことに取り組みます。ほかの2つについては他の人に任せる,または中止,省略を検討します。
 「緊急重要マトリクス」を活用することを前提に5ページの4つの方法をみていくと,選択肢@は資料,データを「並べてある順番で処理,指示」しようとしています。これでは全体を把握することも,優先順位をつけることもできません。Aの「すぐにできるものを選び,優先して処理,指示」していては,「緊急かつ重要」なことや「緊急でないが重要」なことの着手ができない可能性があります。Bはすべてをメンバーに任せることになっており,優先順位づけや意思決定を放棄しています。Cは自身の求められている役割から,緊急なものは指示を行い,自身の判断や意思決定が求められるものはわかる範囲で処理,指示を行っており,これが妥当な解となります。

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