第T部 論理的思考力(ロジカルシンキング)を鍛えよう

◆ はじめに

 リーダーの仕事は問題解決であるといわれます。問題にぶつかったとき,リーダー単独の力で解決することもあれば,仲間の力を借りることもあるでしょう。たとえば,解決のために高度な専門性が必要な場合には,経験豊富なベテランスタッフや専門家の意見が最善の解決策を生み出すことがあり,迅速な行動が必要な場合には,統率力のある人物が各メンバーに的確な指示を出して課題を解決することも多いでしょう。
 ところで,読者の皆さんの周りにも,部署内で新しい課題に取り組むときや,プロジェクトが行き詰まりそうになったときに,自分では考えつかなかったうまい解決策を提案する人がいるのではないでしょうか。皆さんはそのような場面に出合ったとき,メンバーの提案に感心するとともに,発想力豊かな「アイデアマン」といわれる人は,どんな思考回路なのか? なぜ次から次へとよいアイデアが浮かぶのか? と感じたことはないでしょうか。
 経済学者の野口悠紀雄氏は,著書『「超」発想法』において,発想のための5つの原則を次のように定義しています。

 1.発想は,既存のアイデアの組み換えで生じる。模倣なくして創造なし
 2.アイデアの組み換えは,頭の中で行われる
 3.データを頭に詰め込む作業(勉強)がまず必要
 4.環境が発想を左右する
 5.強いモチベーションが必要

 この原則をつなげると,「多くの情報や知識をまず自分にインプットしておき,ほかの事例・解決法を模倣しながら,自分で主体的に考え,アウトプットする環境も多くつくる」ことで,発想力は鍛えられるということになります。つまり,「アイデアマン」の着想は訓練によって後天的に身につけたもので,皆さんの意識と行動次第で発想力はどんどん伸ばすことができるのです。
   本特集では,前半で論理的な思考(ロジカルシンキング)の基礎練習を,後半で論理的思考の型から解放する練習を,論理パズルなどの問題を解くことで行います。皆さんも筆記用具を片手にリラックスしながらパズルを解き,思考の柔軟体操をしながら発想力を磨いていってほしいと思います。

◆ 論理パズルの考え方のヒント

 論理的思考とは,事実の因果関係を整理して順序立てて考えることです。ビジネスでは,上司や部下・顧客に対して自社・自分自身の考えについてわかりやすく納得しやすい説明を必要とされる場面が非常に多くあります。論理的思考力を高めることで,課題解決のヒントを総合的に分析してよい選択をすることができ,根拠を積み重ねながら説明するため,聞くほうも納得しやすくなります。
 さて,「事実の因果関係を整理」するために,以下のような問題を解いてみます。皆さんも一緒に考えてみましょう。

(例題1)
 ある中華レストランの料理人チームはこだわりが強く,自分の得意料理しかつくろうとしません。八宝菜・麻婆豆腐・焼売の3つの料理について次のことがわかっています。
 A.八宝菜がつくれる者は,麻婆豆腐もつくれる
 B.八宝菜,麻婆豆腐,焼売の3つをすべてつくれる者はいない
 C.麻婆豆腐と焼売の両方をつくれる者がいる
 このとき,以下の1〜5の中で確実にいえることはどれでしょうか。
 1.八宝菜しかつくれない者がいる
 2.焼売しかつくれない者はいない
 3.麻婆豆腐と八宝菜の両方がつくれる者はいない
 4.八宝菜と焼売の両方がつくれる者はいない
 5.麻婆豆腐しかつくれない者はいない

 論理パズルにはいろいろなタイプの問題がありますが,どれも与えられた条件をうまく整理して解答を導くことが求められます。皆さんは例題1について,最初のAからCの条件をどのように整理するでしょうか。

解答

 条件整理の1つの方法として,3種類の料理がつくれる(○)かつくれない(×)かで場合分けし,どんな料理人がいるのかをすべて書き出してしまう方法があります。料理人は,次の8つのタイプに分類することができます。

 このうち,AからCの文章から該当する・しないを検討すると,このレストランには,下図A・C・E・F・Gの,5タイプの料理人がいることになります。

 そこで,選択肢を検討すると,「1.八宝菜しかつくれない者がいる」はDが最初の条件で削除されたため間違い,「2.焼売しかつくれない者はいない」はFにつくれる者がいるため間違い,「3.麻婆豆腐と八宝菜の両方がつくれる者はいない」もAにつくれる者がいるため間違い,「4.八宝菜と焼売の両方がつくれる者はいない」は正しく,「5.麻婆豆腐しかつくれない者はいない」はEにつくれる者がいるため間違いとなり,正解は「4.八宝菜と焼売の両方がつくれる者はいない」となります。
 このように,与えられた環境や条件を表などを使って一覧化することで,一見複雑と思われる内容も正しい裏づけのもとで判断できるようになります。このとき,「モレなく,ダブりなく」条件を整理するように意識することが大切です。これは,MECE(ミーシー:Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)と呼ばれ,情報の収集・整理・分析において重要な考え方です。
 それではもう1問,条件整理の問題を考えてみましょう。

(例題2)
 坂本さん・村上さん・石橋さんの3人の男性社員がいます。それぞれ異なる色(青・赤・緑)のネクタイをしています。それぞれの社員のネクタイの色は?
 1.石橋さんのネクタイは緑ではない
 2.赤のネクタイをしている人は石橋さんではない
 3.緑のネクタイをしている人は坂本さんではない



解答

 条件整理の1つの方法として,3種類の料理がつくれる(○)かつくれない(×)かで場合分けし,どんな料理人がいるのかをすべて書き出してしまう方法があります。料理人は,次の8つのタイプに分類することができます。
 このマスの中に,与えられた条件文から○や×をつけていくことで,条件を満たす1種類の解答が導かれ

ます。例題2の場合は,まず1〜3の文章から3つの×をつけていくと,石橋さんは青,村上さんは緑が当てはまることがわかります(図1)。すると,坂本さんは赤であることがわかるので(図2),すべての人の色が決まります(図3)。正解は,坂本さんは赤,村上さんは緑,石橋さんは青となります。

 準備運動の最後は,論理パズルの名作「天使・悪魔・人間」の問題です。

(例題3)
 天使・悪魔・人間の3人がいます。3人は村人の姿で,外見からはだれがだれだかわかりません。しかし,天使はつねに真実を話し,悪魔はつねにウソをつき,人間は真実を話したりウソをついたりします。
 ・村人A「わたしは天使ではありません」
 ・村人B「わたしは人間ではありません」
 ・村人C「わたしは悪魔ではありません」
だれが天使で,だれが悪魔で,だれが人間でしょうか?



解答  村人A…人間,村人B…天使,村人C…悪魔

 論理学では「命題の真偽」を追究することは非常に重要なことですが,慣れていないとどこから手をつけていいのかわからない人もいるかもしれません。ここでは,矛盾を突いて解答の選択肢を絞り込んでいく方法でアプローチしましょう。
 村人Aの言葉「わたしは天使ではありません」はだれが言ったのかを考えます。実は,「わたしは天使ではない」と言えるのは人間だけなのです。なぜなら,天使が言ったとすると,天使なのにウソをついていることになり,悪魔が言ったとすると,悪魔なのに真実を語っていることになるからです。したがって,村人Aは人間ということになります。
 その次の村人Bの言葉「わたしは人間ではない」と言えるのは,天使と人間だけです(ちなみに,天使が言った場合はその発言は真実,人間の場合はその発言はウソ)。なぜなら,悪魔が言ったとすると,悪魔なのに真実を語っていることになるからです。すでに村人Aは人間と決まりましたので,村人Bは天使ということになります。
 そして,残った村人Cが悪魔であるとわかります。

◆ 役に立つフレームワークの活用

 現状分析や意思決定を行うときにさまざまな「フレームワーク」を利用する人も多いでしょう。この「フレームワーク」は思考方法の「型」を意味しますが,論理パズルでもこれまで例示した考え方の「型」が非常に役に立ちます。与えられた条件を自分にとってわかりやすい形に整理するコツをつかむと,課題解決にかかる時間が減り,かつ有効な解答を得ることができるでしょう。

論理パズルの考え方の3つのヒント
 1.すべてのパターンを表に書き出してみる
 2.マトリクス(マス目)を使ってパターンを整理する
 3.条件どうしの矛盾を突いて解答を絞り込んでいく

 論理的思考力を鍛えるためには,上記のヒントやフレームワークをきっかけに,試行錯誤を繰り返すことが大切です。考え抜くことをあきらめなければ,最初は型どおりであったフレームワークが徐々に自分なりの思考の筋道として出来上がります。自分の腑に落ちた思考回路から出た問題解決策は,ほかの人にも説得力を持って伝えることができるようになることは間違いありません。

表紙へ戻る

Page 1.

Go to Page 2.

 

 

目次へ戻る