フェラーリのF1チームから学ぶリーダーシップ

 本稿は部下を持つ職場のリーダーを対象として書いています。経営をめぐる環境が厳しくなるほど,職場のリーダーへの期待は高まっています。職場のリーダーなどが果たすべきリーダーシップについて考えましょう。

(1) フェラーリ・チーム監督ジャン・トッドのやり方

 筆者は先日,ブリヂストンで1997年から14年間,モータースポーツタイヤ開発ディレクターを務め,フェラーリやマクラーレンなどF1へのタイヤ供給の現場指揮をとっていた浜島裕英氏(写真左)の話を聞く機会を得ました。浜島氏はフェラーリのF1ドライバーだったミハエル・シューマッハと仕事を通じた信頼関係を築き,“ハミー”“シューミ”と呼び合えるただ一人の日本人といわれています。

フェラーリを支えた日本人エンジニア浜島裕英氏(提供:浜島裕英氏)

 浜島氏によると,F1レースのチームは,チーム監督,ドライバー,設計者,エンジニア,メカニック,タイヤ会社などで構成されています。浜島氏がタイヤ供給の指揮をとっていた当時のフェラーリ・チームの監督はフランス人ジャン・トッドでした。彼のやり方は,関係者全員を同じ場所に呼び,議長役となって,「成績が悪いのは何が問題なのか?」と問いかけ意見を促すことからはじまります。チーム内では弱い立場のタイヤ会社について,ほかのメンバーから「お前のところのタイヤが悪いから成績が悪いんだ」と意見が出されても,監督はその意見をただちに採用することはありません。その代わり,「浜島はどう考えているんだ」と必ず意見を聞きます。全体の意見が出し尽くされ結論がみえたところで最後に,「みんな,やらなければならないことはわかったか」「一つ言っておく。改善することがあっても勝手にやるな。チームと共有してから動いてくれ。俺たちは一つのボートに乗っているんだ」と。そして,メンバーはその後一緒の食事を通じてお互いの距離を縮めるのです。
 フェラーリ・チームから学ぶべきは何か。それは,「勝利する」という目標でチームを一つにするということです。テクニカルに関わる大きな問題に限らず,小さな問題がエンジンやタイヤに及ぼす影響が重大だからこそ,すべてのメンバーが対等平等でコミュニケーションを取ることができる関係を最も重視しています。フェイストゥフェイスにこだわった,正確で細部にわたる情報交換を行うコミュニケーション戦略でチームを束ねていることを学ぶことができます。

(2) 共通目的,協業意欲(貢献意欲),コミュニケーション

 フェラーリ・チーム監督,ジャン・トッドのやり方は,バーナード(Chester Irving Barnard,1886-1961年)の組織の3要素(図表1)を思い起こさせます。
 バーナードは,人間について,生産に必要な機械,道具のように位置づけ,命令に従って行動する存在ととらえたそれまでの見方を否定し,自由な意思を持ち自由に行動する存在ととらえました。そして組織の3要素として@共通目的,A協業意欲(貢献意欲),Bコミュニケーションをあげました(バーナード『新訳 経営者の役割』(山本安次郎他)ダイヤモンド社,pp.86-95,邦訳1956)。

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