1 スキル演習「聴くこと」「話すこと」のトレーニング

◆ 対人コミュニケーションのメカニズム

 トレーニングをはじめる前に,対人コミュニケーションのメカニズムを考えてみましょう。いちばんの基本は,1対1のコミュニケーションです。コミュニケーションをとろうとするとき,まず「送り手(発信者)」と「受け手(受信者)」が存在します。送り手である発信者は,受け手である受信者に対して何らかの伝えたい意思があり,伝えること(内容)を持っているはずです。まず,送り手は,自分の考えている内容を受け手に発信します。送り手が伝えたい内容をそのまま受け手が受け取り,その内容に理解共感を示し,納得行動に移してくれればコミュニケーションの目的は達成されたことになります。
 ところが,往々にして発信者の伝えたいことはそのまま受信者に伝わりません。どんなに親しい間柄であっても,発信者と受信者は別の考えを持つ独立した人間である以上,これはやむを得ないことです。良好なコミュニケーションをとるためには,このことを前提に考えていく必要があります。
 発信者は,受信者に伝えたい内容をわかりやすく伝えなければなりません。一方,受信者は発信者の伝えたい内容を理解する努力が求められます。言葉だけでなく,態度(まなざし,表情,しぐさ)まで含め,相手の発する情報を受け止めることのできる能力を身につけましょう。また,受け手の「質問」,送り手の「回答」というフィードバックの回路を活用することもコミュニケーションを完成させる有効な手段です。


 トレーニングのすすめ方

 1人でやる聴く練習

 誰かと話をするときに,相手にはそのことを言わないで,意識的に話を聴く。話をしている人のまなざしを見て,気持ちをからっぽにして,ひたすら聴く。誠実な関心を寄せながら聴くのは当然であるが,このとき自然に出る「うなずき」や「あいづち」,短い「問いかけ」をしながら,真剣に聴いていることを相手に伝えるメッセージを発する。

 2人でやる聴く練習

 ロールプレイングの要領で,「話し手」(スピーカー:S)と「聴き手」(リスナー:L)に分かれて,次のような練習をする。Sは日頃から気になっていること(架空の話でもよい)をLに話す。このときLは,1人でやる聴く練習の態度で聴く。

 3人でやる聴く練習

 2人でやる聴く練習に,もう1人観察者(オブザーバー:O)を入れ,3人のチームとし,話し,聴き,観察する。1人が終わったら順に役割を変えていく。
 話のテーマは自由だが,「私はこんな人」のような誰にでも話せて,話し手の気持ちが表に出やすいものがよい。座り方は右図のような配置とし,椅子だけにする。対面だけでなく,直角,平行と角度を変えてみるのもおもしろい。

 グループでやる聴く練習

 上述の3人のチームを2つか3つ合同にして,いまの練習で感じたことを話し合う。この話し合いも「聴く」という姿勢で行う。
 

重要な受信者側のメッセージ
 相手の話を上の空で聞くだけだったり,話す側が一方的に話をするだけでは会話は成り立ちません。コミュニケーションが成り立つためには,受信者(L)と発信者(S)の双方が,それぞれの役割を果たす必要があります。
 受信者(L)として,相手の話を聴く場合の留意点は次のようになるでしょう。
 ・何を言いたいのか,相手の話をていねいに聴く(積極的傾聴)こと
 ・言葉に表現できない(しない)相手の真意をつかむこと
 ・相手の伝えたい内容を確認する(そのための方法として復唱する,メモをと
  る)こと

 また,発信者として,話す(伝える)場合の留意点は次のようになるでしょう。
 ・やって欲しいことを確実に伝えること
 ・必要な情報を漏れなく伝えること
 ・伝えた内容を確認する(そのために,復唱してもらう,メモに残してもら
  う)こと

 この演習では,受信者(L)が発信者(S)に話をきちんと聴いていることを伝えるところがポイントです。聴き手が真剣に聴いている,というメッセージを発信者が受け取っているとき,発信者は話をしやすくなります。もちろん,メッセージは言葉だけではなく,聴き手のまなざしなど態度も重要な要素になります。

アイコンタクトは座り方(位置)も重要
 対話や面談の場ではアイコンタクトが大切です。この場合座り方も案外大事です。90度法(直角法)はお互いがいちばん話しやすい位置とされています。

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