8.キャリア自律によって離職は増えるのか


離職に直接つながるものではない

 「社員のキャリア自律度が高まると,転職意向も高まるのではないか?」という声をよく耳にします。優秀な人材の離職は企業にとって大きな損失であり,企業の本音としては社員の自律を願いながらも優秀な人材の離職は避けたいと考えるのはもっともです。果たして,キャリア自律の高まりは,社員の離職を促す主な要因となるのでしょうか。
 2021年に行われたパーソル総合研究所の調査では,社員がキャリア自律しているからといって,離職に直結するわけではないことが明らかになっています。一方で市場価値が高い(と認識している)若年層の転職を促している傾向が見られました。

転職意向を抑制するポイント

 では,社員のキャリア自律を高めつつ,離職リスクを抑えるにはどうすればよいか。同調査において,キャリア自律度が高く,市場価値が高い(と認識している)人材の転職意向を分析したところ,転職意向が低下する要因は,1位「昇進の見通し」,2位「やりたい仕事ができる見込み」でした。そして「やりたい仕事ができる見込み」を促進しているのは,キャリア自律度を高める要因でもある「キャリア意思の表明機会」

「ポジションの透明性」「組織目標と個人目標の関連性」であることがわかりました。また,「キャリア不安」は転職意向を高め,パフォーマンスにマイナスの影響を与えることが確認されました。
 つまり,キャリア自律を高め,かつ優秀な人材の離職を防ぐ手立てはあるのです。1)キャリア意思の表明機会,2)社内のポスト・ポジションの透明性,3)組織目標と個人目標の関連性,4)キャリア不安,の4つに留意しつつ,短期・中長期の視点から本人のキャリア意思に沿った「仕事という報酬」を提供することがポイントであるといえます。そしてこの「仕事の報酬」は,7ページの「働きやすさ」と「働きがい」で触れた「働きがい」にほかなりません。

 たとえキャリア自律を高めた社員が辞めたとしても,前職の仕事に魅力や働きがいがあれば,出戻りを望む人もいるでしょう。そのときに元社員を迎え入れる制度があれば,再雇用することも可能です。一度社外に出て活躍した人材を再び受け入れてキャリア形成を支援できる企業は,結果的に雇用市場において「選ばれる」可能性が高まります。その実例が,8ページで述べたサイボウズ社の「育自分休暇制度」であり,退職しても6年の間であれば復帰できる制度です。社外で新たな知見やノウハウを得た社員が,この制度によって再入社することを可能にし,組織の強化につなげました。
 このように,社外活動を通じてキャリア自律を促す企業は,社員の視野を広げて自律的な人材を育てることができます。また,一社員の立場からしても,キャリア自律を促す施策を導入している企業のほうが魅力的なのはいうまでもありません。

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