3.プログラミング的思考が注目されている理由

答えのわからない不透明な社会

 現代はVUCAの時代といわれています。VUCAとは,Volatility(変動性),Uncertainty(不確実性),Complexity(複雑性),Ambiguity(曖昧性)の頭文字を

とった造語です。グローバリゼーション,IT技術の進化,気候変動,直近ではコロナ禍のようなパンデミック,専制国家による軍事侵攻などもVUCAを深める主な要因となります。日本だけではなく,世界中が答えのわからない不透明な社会に変わりつつあるのです。
 市場におけるニーズの多様化によって,ビジネス構造も大きく変化しました。かつては「大量生産」がキーワードであり,他国や他企業が持っている技術をまねて再現し,効率的に大量生産することがビジネスの常識でした。

 しかし,今では新しい技術やノウハウもすぐに一般化し,最先端もあっというまに時代遅れになります。大量生産で一般化されたモノよりも,思想に共感できる革新的なサービスやモノが求められているからです。
 こうして既存の大企業が衰退していくことを,ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授は「イノベーションのジレンマ」という経営理論で提唱しました。大企業は定評ある既製品の改良に注力し,新興企業が生み出す全く新しい価値(破壊的イノベーション)を軽視した結果,いつのまにか新興企業の後塵を拝してしまうというものです。現在,日本全体がイノベーションのジレンマに陥り,新しい価値を生み出せないまま,海外から遅れをとっているといわれています。

消費時代から思考時代へ

 大量生産によって大量消費する社会では,労働も画一的になっていきます。少し前の世代までは,システムや機械の使い方を教えられたとおりに実行し,疑念を抱かずに同じ作業を繰り返していればよいという働き方でした。しかし,現代ではこの考え方が通用しません。先ほどのイノベーションのジレンマに陥り,仕事そのものを失いかねないからです。それを回避するには,「現在の作業の中に無駄はないか,改善すべき点はないか?」「今までと違う方法でサービスやモノを提供できないか?」と思考しつづけることを,経営者だけでなく,働き手の一人ひとりに求められています。
 経済成長の最終段階である消費時代では,労働は指示されたことを素早く正確に行えばよかったのですが,力強い経済成長を脱した現在では,何をやれば新しい価値を生み出し,新しい市場が開拓できるのかを個々人が考える思考時代になったのです。
 思考時代には,既存の方法論にとらわれることが最大のネックになります。顧客のニーズに応えるだけでなく,新しいニーズをつくるには何をすればよいか思考を巡らし,あらゆる方面から積極的に意見やアドバイスを収集して可能性を探ることが,VUCAの時代にビジネスで生き残る唯一の方法論です。

一人ひとりに求められる価値を追求する姿勢

 前項で述べたプログラミング教育のメリットを思い出してください。「他者とプログラムを見せあう」ことで,知識を教えあったり,技術を高めあったりした結果,アイデアを飛躍させて,独創的なプログラムを生み出す子どもたちが現れています。この過程で養われるのが「プログラミング的思考」です。
 プログラミング的思考が身につくと,プログラミング作業に限らず,さまざまな作業の中で問題点を洗い出し,原因を究明しようとする習性が備わります。しかも周囲から意見やアドバイスを求めることに躊躇しないため,高い確率で改善すべき課題が早期に見つかり,迅速に対処することができます。
 また,プログラミング的思考の特徴として,何度も新しい発見と新しい方法を繰り返すことがあげられます。いきなり解決に向けて一直線ではなく,何度もトライを重ねることによって,解決の精度を高めていくのです。

 プログラミング的思考は,市場や顧客のニーズを深く理解し,サービスの価値をより洗練させていくことが求められる私たち社会人にこそ必要な思考習慣だといえるでしょう。

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