2.自分や職場に潜む「無意識の偏見」

知らず知らずのうちに相手を傷つけている

 無意識の偏見は,誰もが無関係ではありません。偏見は自分の所属する集団や組織に潜んでおり,知らず知らずのうちに多くの人々に共有されていきます。例えば,過去に私が経験した職場では以下のような慣習がありましたが,みなさんの職場ではどうでしょうか。これらは,無意識の偏見が根底にあると考えられます。

 ・懇親会で新入社員に一芸を披露させる
 ・正社員には名前で呼びかけるが,派遣社員には「派遣さん」と呼びかける
 ・何かにつけて独身の社員を話題に結びつけて周囲の笑いをとる

 十分な根拠がないのに,特定の人に対して,決めつけたり一括りにしたり,偏った捉え方や考え方を持つことが,あなたの周囲にあるとしたら,あなたもその周囲の偏見に影響を受けているかもしれません。

 ・Aさんにはこれくらい強く言っても大丈夫だ
 ・女性は車の運転が下手だ
 ・年寄りはスマホが使えない
 ・障害がある人はできないことが多い
 ・障害のある人は「かわいそうだ」「気の毒だ」

 こうしたモノの見方や捉え方に思い当たる節があれば,それも無意識の偏見とは無関係ではないのです。

その人の違いや可能性に注目してみる

 「歩行者用信号機を描いてください」
 私が登壇したある講座での出題(クイズ)です。上下に四角が2つあるマスの中に,歩行者用信号機の形と色を描き入れてもらいました。障害の有無に関係なく,さまざまな人が参加したこの講座で,知的障害のあるKさんが描いたものが右の絵です。実際の歩行者用信号機とは違いますが,とてもユニークな発想です。
 一方,このクイズに回答したほとんどの人が,実際に存在する歩行者用信号機を思い出しながら用紙に描きました。ですから,みんながほぼ同じような絵になりました。Kさんが描いた絵はクイズの解答としては不正解です。しかし,正

解・不正解のどちらかに決めることだけが判断基準となると,Kさんのアイデアや発想が活かされないばかりか,注目されることさえありません。その人の見方や捉え方を評価・批判するのではなく,まずは違いに注目してみることが大切なのです。

特異なことは「強み」になる

 軽度の知的障害があり,自閉的傾向の強いH君は,あらかじめ決めた計画・時間通りに物事を進めたい,計画・時間通りに物事が進まないと嫌だ,といった強い「こだわり」がありました。あらかじめ決めた計画や時間が,誰かに乱されたり,急に変更になったりすると,H君は不安になりイライラが増し,人に対して攻撃的になることもありました。H君は周囲から「面倒くさい人」と思われてしまうのでした。
 そんなH君は走ることが大好きで,私とランニングの練習を定期的に行っていました。ある日,私は提案しました。
 「ゴールタイムを決めたら,ピッタリその通りに走れるようになろう!」
 3年ほど練習を積み重ねると,H君は1kmを5分なら5分で,4分なら4分で,誤差±3秒以内で走ることができるようになりました。H君はこのスキルを活かし,今では健常者ランナーの練習パートナーを務めています。障害のある人が健常者をサポートしているのです。これまで本人や周囲の人を苦しめていた計画・時間への特異な「こだわり」は,人のために役立ち,自分の貢献感にもつながるH君の「強み」になったのです。

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