1.1on1を導入する企業が増えている背景

 テレワーク導入によるエンゲージメントの低下

 2020年以来のコロナ禍は,私たち働き手が,仕事の意味,会社との向き合い方,ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)など,働き方全般をあらためて考え直す契機となりました。「組織の目標・戦略と自分の価値観が合わなくなってきた」「この会社で働きつづけていいのだろうか」 ―― そう考える人が若者世代に限らず中堅からベテランにも増えており,特にテレワークを実施している会社では,従業員のモチベーションやエンゲージメント(会社に対する愛着心や貢献意欲)の低下が顕著です。
 全国の総務担当者(253名)を対象に行われた調査(『月刊総務』調べ)によれば,82.6%が社員のモチベーションに影響があったと回答し,エンゲージメントに関しては「やや低下している」が88.6%,「とても低下している」が7.1%で,計95.7%がエンゲージメントの低下を感じていました。さらに,エンゲージメントの低下を感じる具体例としては,「退社する若手社員の増加」「聞いてない,知らないという受け身

の社員の増加」などがあがっています。
 テレワークや時差出勤が定着しつつある企業では,従業員どうし,または上司と部下の間でコミュニケーションの機会が激減し,職場の人間関係が希薄化しているという実態を踏まえておく必要があるでしょう。


 1on1ミーティングの主体は部下

 従業員のエンゲージメントは,チームの生産性や企業の業績に最も大きな影響を与える要因ですが,従業員エンゲージメントを向上させるために,昨今,多くの企業が採り入れているマネジメント手法に「1on1ミーティング」があります。

 一般的に1on1ミーティングは毎月行われ,上司と部下が1対1で行う面談であり,上司が部下の話を聴いたうえで,適切な助言を送ることが基本スタイルです。したがって,期末ごとに上司から部下に評価通達をしたり,業務の進捗を確認したりする評価面談とは主旨が異なり,1on1ミーティングの主体は上司ではなく,あくまでも部下となります。
 1980年代に米国の半導体メーカー,インテルで始まったとされる1on1ミーティングは,2000年代に入るとマイクロソフト,グーグル,ヤフーといったシリコンバレーのIT企業を中心に採用されるようになりました。日本でも2012年にヤフージャパンが導入して以来,IT,製造,食品,流通,エンタテイメント,サービスなど,さまざまな業種の主要企業が採用し,中長期的な部下の育成,職場における心理的安全性の確立を目的として取り組んでいます。

 上司の部下育成力を養う機会としても有益

 先進国の中でも国民のワクチン接種が遅れた日本では経済活動の抑制によって雇用も回復していませんが,国民の大半が接種し終えれば,米国などと同様,急速に求人が増加し,多くの業種で労働力不足になることが予想されます。それに伴い,従業員の離職・転職も活発化すると考えられ,優秀な人材の流出を防ぐためにも会社へのエンゲージメントを高める施策を早急に講じる必要があるでしょう。
 その際,会社に対する愛着や思い入れを従業員に抱かせ,業務に対するモチベーションを再起動させるためにも,1on1ミーティングは特に有効なマネジメント施策となるはずです。同時に,1on1ミーティングを行い,お互いに対話を深めることは,部下のビジネスパーソンとしての成長を促すだけでなく,上司自身が部下の育成力をレベルアップさせることにもつながるのです。

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