3.リーダーの基盤を整えるA リーダーに相応しい“人間力”とは?

 上司に求められる指標として,「智・信・仁・勇・厳」の5つがあり,中でも「信・仁・厳」は,上司の部下に対する“関わり方”になります。個人的には,特に「信:(部下から)信頼されること」が,上司がリーダーシップを発揮するうえで最初に取り組むべき事柄だと感じています。なぜなら,上司が部下から信頼されないことには,部下に対して思いやりの心も生まれないだろうし,仮に厳しい態度で臨んだとしても,反発を招くに違いないからです。
 部下に信頼されるためには,先述した「嘘をつかないこと」「丁寧な言葉遣いをすること」以外にも,さまざまなコミュニケーションスキルが求められます。それについては後述するとして,ここでは,最も根幹に置くべき事柄である上司の“人間力”について確認していきたいと思います。

 部下に「一緒に働きたい」と思わせる“人間力”

 部下に「一緒に働きたい」と思わせる上司の人間力とはどのようなものでしょうか。『孫子』地形篇の中に,参考になる一節があります。

 この一節には前段部分に,「戦いに必ず勝てる見通しがつけば,主君が反対しても断固として戦うべきだし,逆に,勝てる見通しがつかなければ,主君が指示しても戦うべきではない」という主旨の一節があります。つまり,将軍はそのような立場(=主君から全権委譲されている立場)にいるからこそ,功績をあげても名誉を求めず,敗北しても責任回避してはならない,という前提があると考えられます。
 あらためて原文部分を“上司の人間力”という観点で訳してみます。
 すなわち,上司には,成果をあげても自分の手柄にせず部下を称賛し,仮に成果があがらなくても自分のこととして受け止める責任感の強さを持ち,部下を大切に扱いながら,組織の利益を最大化する力が求められる,と言い換えられるでしょう。部下に「一緒に働きたい」と思わせる上司とは,このような人間力を備える人物のことを指すのです。

 自らの“人間力”を高めるために

 上司に求められる人間力を理解したあなたの次なる課題は,それをどのように高めていくのか,ということになります。ここで,私が企業のリーダーシップ研修に取り入れているひとつの方法を紹介します。
 それは,「リーダーとしての信念・信条をつくる」という方法です。これは,会社に経営理念や行動規範があるように,上司としての信念や信条をつくることで,ブレない自分をつくり,部下に対して模範となる存在になることを目指すものです。
 ここで,信念・信条についての言葉の定義を確認しておきます。
 信念:正しいと信じる自分の考え
 信条:堅く信じて守っている事柄

 とあるように,この2つの言葉は微妙にニュアンスが異なります。いうなれば,前者が自分の思想(考え方)であり,後者はそれにもとづく行動と読み換えてよいかもしれません。
 例えば,私の場合でしたら,以下のようになります。
 私の信念(例):人間的成長はコミュニケーションのあり方に表れる
 私の信条(例):部下をひとりの人間として尊重する
 みなさんの人間力を高めるために,これを機会に,上司としての信念・信条を定めて以下の記入欄に書き込み,自らの規律とすることをおすすめします。 

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