5 質問のスキルとは――どのように質問したら効果的か?

 コーチングを行うときに相手からさまざまな情報を聞き出すことになりますが,その時にどのように質問するかが相手から情報を引き出す鍵になります。
 たとえば,仕事上の悩みを抱えているように見える部下に対して,「どうした? 何か悩んでいるのか? いまの仕事はそんなに大変な(難しい)のか?」と聞いた場合,部下はどう答えるでしょうか。「はい」または「いいえ」としか答えようがありませんよね。また「はい」というとその後何か言われるのではと不安に思い,つい「いいえ」と言ってしまうこともあるでしょう。さらに,悩みは必ずしも難易度とは限りませんので,「難しい」「易しい」といった次元での悩みではない場合は,答えようがありませんね。
 この場合,どう質問すればよいのでしょうか。たとえば,「最近仕事のことで悩んでいるようだけど,君にとってどんなこと(何)が問題になっているんだろう?」と聞くことで,部下は頭を巡らせることになり考えもまとまりやすくなります。その結果,「顧客からの要求レベルが上がって,いまの自分の知識やスキルではなかなか対応できないことが多くなって……」,あるいは,「アシスタントの○○さんがなかなか独り立ちしないので,その分私の仕事が増える一方で……」など何を悩んでいるかを具体的に話してくれるようになります。「顧客の要求レベルに応えるには,どんな知識やスキルを身につけたらいいのかな?」さらに「どんな方法で身につけることができるのだろうか?」などとどんどん会話が膨らんでいくのではないでしょうか。
 さて,質問の仕方にはクローズド・クエスチョンオープン・クエスチョンの2種類があります。クローズド・クエスチョンとは,相手が「Yes/No」で答える質問で,答える範囲が限定される一方短時間で回答を得ることができます。事実や意見を確認したり明確にしたりする場合などには有効な質問の仕方といえます。
 それに対してオープン・クエスチョンは,相手に自由に答えてもらえるような質問で,さまざまな答えが期待できる一方,相手は考えますので答えを引き出すには時間がかかります。2つの質問の仕方にはそれぞれメリット,デメリットがありますので状況に応じて使い分けることが求められます(図表4)。
 それでは,コーチングにおいては2つのうちどれを使えばいいのでしょうか。上に

図表4

オープン・クエスチョン

クローズド・クエスチョン

 質問のタイプ

  相手に自由に答えてもらえ
  るような質問

  相手が「Yes/No」で答える
  質問

 回答の特徴

  さまざまな答えが期待できる

  答える範囲が限定される

 回答までの時間

  答えを引き出すには時間が
  かかる

  短時間で回答を得られる

 適用できるケース

  相手に十分考えさせて答えを
  引き出すことが必要な場合

  事実や意見を確認したり明
  確にしたりする場合

挙げた例を見てもわかるように,「Yes/No」を求めるクローズド・クエスチョンではなく,「何が」とか「どのように」などと質問するオープン・クエスチョンのほうが話が広がり相手からさまざまなアイデアや情報を引き出すことが可能であるといえます。
 ところで,オープン・クエスチョンの場合,質問のキーワードとして前述の「何が(what)」「どのように(how)」など,いわゆる5W1Hを用いるとよいとされています。いずれも,相手から何らかの情報を引き出せるからです。ただ,「なぜ(why)」を用いる時は気をつける必要があります。
 たとえば,部下が仕事で何かミスをした場合,上司としてはミスが繰り返されないように部下を指導し,さらに成長させようとするわけですが,そんな時「なぜ,そんなミスをやったんだ?」と聞いたらどうでしょう。人は誰でもミスをしようと思ってやったわけではありませんので「なぜ?」と言われても部下は答えようがないでしょう。また,面と向かって詰問されているようで,若い社員であれば委縮してしまい,考える余裕を失ってしまうかもしれません。

 このような場合,「ミスを起こした原因は何なのだろう?」または「これからミスをしないためにはどうしたらいいと思う?」などと質問すれば,部下も前向きに考えることができるようになり,会話も発展し,さまざまなアイデアが生まれてくるのではないでしょうか。

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