事例2 新入社員との向き合い方・かかわり方


 食品から重工業まで幅広く使われる化学品の専門商社K株式会社は,今年で創業70年を迎える歴史ある企業です。常に時代の最先端で求められる化学品を世の中に提供することでその歴史を築いてきました。社員数は約300名の少数精鋭で,国内需要に応えるだけでなく,世界18ヵ国,60拠点を持ち,グローバルビジネスを展開しています。K社は若手社員が活躍しており,社員の主体性を重んじる文化を大切にしています。和やかなコミュニケーションの中で,部下は上司・先輩から学び,成長していくと考え,次世代を担う新入社員の育成にも力を注ぎ,メンター制度を導入して今年で4年目になります。
 今年も新入社員は,営業,技術,管理の各部門の総合職16名を採用しました。新入社員の山口さんもその一人で,営業職として入社しました。理系の大学を卒業した山口さんは,理系大学の出身者にも営業を担当させる点に魅力を感じて入社を決めました。同社の営業職は,国内,海外の取引先に対し原料や加工品,機械などを営業販売するだけではなく,素材の新しい利用方法や周辺技術,自社開発品の提案も行うため,幅広い知識と経験を身につけ,将来に渡り活躍したいと意欲的です。営業職を志望するだけあって物怖じせず意欲的な好青年で,会社の人事部門は将来の幹部候補として育てたいと考えています。
 新入社員の山口さんは営業3部に配属され,山口さんのメンターに選ばれたのは,入社6年目になる営業2部の森田さんです。森田さんは以前にも一度メンターを経験したことがあり,今回はメンターとして担当するのは2度目です。月に一度の割合で山口さんと面談の機会がありますが,うまく信頼関係が築けるか不安になってきました。

 何度か面談を重ねていくうちに,森田さんは山口さんの態度が少し気になりだしました。森田さんが「最近,仕事はうまく行っている? 何か困っていることなどはない?」「もう職場にも慣れたかな?」などと問いかけてみるのですが,山口さんから返ってくる返事はたいてい「大丈夫です」と一言だけであまり話したそうではありません。
 アドバイスをしても理解できたのか,役に立ったのかよくわからず,ただ義務的に返事をしているように思えるのです。以前担当したメンティは何でも気軽に話してくれたのに……。森田さんは,山口さんとは相性が悪いのではないかと思い,自分は山口さんのメンターには相応しくないのでは? と思うようになってきたのです。

 メンターの森田さんはなんとか山口さんと良い関係を築きたいと考えて,上司に助言を求め,人事担当に相談しながら意識的に対応のしかたを変えるなど,根気よく山口さんに向き合おうと努力を続けました。すると,山口さんの態度にも少しずつよい変化が見られるようになり徐々に話をしてくれるようになってほっとしていました。それから間もなく,また定期的な面談の日が来ました。森田さんが約束の時間より少し早めにいつものミーティングルームに入ってコーヒーを飲んでいると間もなく山口さんが入ってきました。なんだかいつもの山口さんとは違うなぁと思いながら,「やぁ,お疲れさん。ここのところ社内ではあまり顔を合わせる機会がなかったけど,どう? 調子は?」と声をかけてみると,思いも寄らない答えが返ってきたのです。
 「自分は仕事ができない,使えない人間だって思うんですよ」
 「何かあったのか?」
 「とくに何かということもないんですけど,自分は能力ないなって……」

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