事例1 育児のための時短勤務中の女性社員からの質問


 平日の午後,A課長は女性社員Bさんから,「お話ししたいことがあるのですが,よろしいでしょうか」と言われました。A課長は「もちろん,かまいません」と,Bさんと空いている会議室に行き,話を聴くことにしました。


 Bさんは現在結婚して子どもを保育園に通わせています。育児のための時短勤務中で,子どもの送り迎えもしています。結婚するまでは,住宅のシステムキッチンや台所の収納機器,水回りの新商品を代理店に販売する業務での企画を担当していました。Bさんがリーダーとしてまとめたプロジェクトは,ネットや携帯情報端末も活用した説明や,商品そのものを活用したわかりやすい販売促進方法で,当社のシェアを広げることができました。また,女性や主婦の目線を前面に押し出すばかりでなく,販売の最前線でも女性販売員で構成したチームを活用するなど,業界でも一目置かれるものでした。現在は,子育ての時短勤務中であるため,販売促進チームで販売データなどの分析を主に担当してもらっています。


 「課長はなぜ私を他のメンバーと同じように扱ってくれないのですか。そんなに私のことを信用していないのですか」。Bさんはいきなりびっくりするような質問を投げかけました。「下期の新商品販売促進チームにも私は参加させていただいておりません。販売促進の経験が全くないC君がメンバーに選ばれ,なぜ私は選ばれないのでしょうか。北海道,東北地区では当社の商品は苦戦しています。私の経験も役に立つと思っているのですが」とBさんは強く主張しました。A課長は,「信用していないなどということはありません。Bさんの実績も実力も十分承知しています。ただ,Bさんはいま,子育てのための時短勤務中です。私も共働きで子どもを保育園に行かせていたことがあるのでわかりますが,子どもはいつ具合が悪くなるかわかりません。保育園から呼び出しの連絡があったときにすぐに駆けつけることができるよう,私としてはワークライフバランスも配慮しているつもりなのですが。また,今回のチームには出張が不可欠です。Bさんに出張を頼むのは無理かと思ったのですが」と答えました。しかし,A課長は心の中では「子育て中の女性社員は急な対応や無理な依頼をすることができなくて使いづらい」と思っていたのも事実です。


 「課長も共働きでお子さんを保育園に行かせていた,とおっしゃいましたが,実際に毎日お子さんをご自身で保育園に送り迎えしていたのですか」とBさんは質問しました。「いや,送り迎えはほとんど妻がしていました」と返答すると,「保育園への送り迎えは女性の仕事とお考えになっているのでしょうか。私の夫は送り迎えを積極的にしてくれます。また,仕事の途中でも何かあれば子どもを迎えに行ってくれます。それから,課長はワークライフバランスは,子育てや介護のときにだけ配慮すればよいとお考えなのですか」とまた質問されました。「いや,そんなことはありません。部下全員のワークライフバランスに配慮しなくてはいけないと考えています」と答えると,「C君やD君たち男性社員は自分の時間やデートの予定も変更して残業をこなしています。課長は無理な依頼や急な対応をしてくれる男性社員のほうが使いやすいと思っていらっしゃるのかもしれませんが,彼らのワークライフバランスは考えたことがあるのでしょうか。それに彼らは私のように率直に意見や不平を言うこともないようですし」とまた質問されてしまいました。


 A課長は,「Bさんの言っていることにも一理あります。しかし,仕事は予定通りいかないのが普通ですし,突発的な変更が出ることも多くあります。そのためには,全体の流れを見渡すことができる担当者や責任者が仕事をしたほうがよいと考えているのです」と答えました。Bさんは,「出産や子育てをする女性は,仕事全体を見ることができないから責任のあるポジションにつけることが難しい,ということでしょうか。これでは,女性のキャリアは出産や育児の段階でストップしてしまいます。また,今回の新商品については女性視点での企画も必要になると考えています。男性だけですと,どうしてもいつも同じような企画案しか出てこないように思えます。斬新なアイデアは,実現不可能と否定的に見る傾向もあります」とさらにA課長に詰め寄ります。


 A課長は「Bさん,それは考えすぎですよ。いまの状態は一時的なもので,ずっと続くわけではありません。もう少し状況が落ち着いたら,以前のように活躍してもらうことができると思っています」。それに対してBさんは,「そうでしょうか。夫の会社では,子育ては男女が協力して行うものであり,男性の育児休暇取得も奨励されています。出産や育児,介護で職場を離れていてもスムーズに職場復帰する制度があり,活用されているそうです。また,在宅勤務など様々な働き方が導入されているそうです。夫の子育てに対する協力もあり,私はもっと信頼して仕事を任せていただける状態ですが,私に限らず当社では子育ての時短勤務中であると重要な仕事は任されないようです。これでは女性が仕事でキャリアを開発していくことはとても難しいことのように思われてなりません。当社では女性管理職になりたがらない人が多いことも理解できます。当社では女性が子育てしながら活躍することは難しいのでしょうか」と,Bさんはまた質問してきました。

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